政幸

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預貯金口座の預貯金(遺産)の払戻し

 被相続人が亡くなり、相続が発生し、遺産の中に預貯金があったとします。 相続人が、あなたの他にも居る場合(要するに単独相続ではない場合)、これまでの実務では、相続人間で遺産分割協議をして合意書(遺産分割協議書)を作成し、その中に上記預貯金についての合意が明確になっていないと、預貯金を預かっている銀行などは、相続人からの預貯金の払戻しには応じてくれませんでした。1 このような従来の取扱いから生じる困った事例 ア 相続人らの間で遺産分割について話し合いが整わないため、遺産分割協議書が作成で  きない イ 他の相続人と没交渉であったり、所在がつかめず、遺産分割協議書が作成できない ウ 遺産分割協議の前提となる相続人が誰なのか判然としない、特に親戚付合いのない被  相続人が死亡し、相続人の一人に自分が入ることは分かったが、被相続人の親族関係を  知らないため、他にどのような相続人が何人いるのかもよくわからない エ 相続人らは、何とか戸籍などをたどれば把握できるものの、高齢の被相続人には、多  数の兄弟姉妹あるいは子らがいて、さらにそれらの者にも死亡により再転相続が発生す  るなどして、あまりにも多くの相続人が存在するため、遺産分割協議そのものが難しいなどなど2 上記1のような事例から、相続人の一人として、例えば、あまり身寄りのない被相続人 と数少ない付合いをしてきた者として、最後を見取り、葬儀やお墓の手配等をしてあげよ うとしても、自腹を切ってそれら費用を立て替えたのに、その分のお金を被相続人の預貯 金から賄いたいのにかなわないといった不都合が多々あるのが、これまでによく見られた ケースです。3 今回の相続法改正(新しい預貯金の払戻し制度) (1) 預貯金の一定割合について家庭裁判所の判断を経ずに単独で払戻しが受けられる。   例えば、被相続人に600万円の預金があったとします。   被相続人の相続人は、子である長女、長男及び次男の3人だったとします。   その場合、長男は、単独で以下の払戻しができます。  相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×払戻しを受ける共同相続人の法定相続分  600万円÷3=200万円(法定相続分)  ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは、150万円までとされているの で、上記長男の方は、自分の相続分200万円のうち150万円の払戻しを受けることが できることになります。  このように払戻しに上限金額が設けられているのは、この制度は、主として葬儀費用支 払のための資金需要に対応することを想定したものだからです。 (2) 預貯金債権については、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和   上記(1)以上の金額のお金が必要なときに備えて、被相続人の遺産である預貯金から仮  払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家  庭裁判所の判断で仮払いが認められることになった。  * 小口の資金需要には(1)を、限度額を超えるような資金需要があるときには、(2)が利   用されることを想定しています。4 弁護士に相談し、利用することのメリット ・ 相続人の探索(戸籍謄本の取寄せ等) ・ 3、(1)の小口預貯金の払戻しの銀行に申し出るにも、自分の法定相続分がどれだけとな  かを銀行に明らかにすることが求められることが予想されます。   弁護士から相続樹系図などを作成してもらい、戸籍謄本などの書証を添えて、自己の  法定相続分を明らかにした上で、求めることがスムーズな払戻しにつながる。 ・ 遠方の銀行との交渉などを弁護士依頼することにより煩瑣な手続の負担がなくて済  む。など                                     以 上      

民事執行の実務(~強制執行について)

はじめに 民事執行の手続は、大きく分けて2種類があります。判決などの債務名義を持っている債権者が、債務者に対して行う(1)強制執行手続と、法律の定め(例えば法定先取特権や留置権など)や契約(抵当権や質権など)で設定した担保権に基づいて行う(2)担保権実行の競売手続です。 (1)は、判決に代表されるように裁判所による判断や執行証書と呼ばれる公証人による公正証書といった公的機関が作成した文書に基づいて権利が強制的に実現されるものであるのに対し、(2)は、借金の債務を担保するために貸主である債権者が借主である債務者の不動産などの財産の上に抵当権を設定する場合のように、契約や合意を基礎として担保権という優先的権利が債務者の財産の上に存在することを前提にその私的権利に基づいて実行されるものです。 いずれも裁判所(管轄地方裁判所の執行部門)を通じて実行される手続であることには変わりありません。 以下では、このうち(1)の強制執行手続についてまとめの解説をします。1 強制執行の種類(執行の目的物による分類)  強制執行にも色々な分類があり、例えば、債務者への強制の在り方の違いにより、直接強制と間 接強制、金銭の支払を目的とするかどうかにより、金銭執行と非金銭執行など、その分類にしたが った手続の特色があります。  このうち、普段よく使われる強制執行は、債権者が債務者に対して持っている債権(金銭債権が 代表的)を回収する手段として利用されるのが通常であることから、金銭執行かつ直接強制という ことになりますが、その執行対象物によって、(1)不動産に対する執行(不動産執行)、(2) 動産に対する執行(動産執行)、(3)預貯金などの債務者が銀行などの第三債務者に対して有し ている債権に対する執行(債権執行)などに分類することができます。  さらに、このうち良く利用されるのは、(1)不動産執行と(3)債権執行なので、以下では、 この2つに焦点を当てて解説します。2 不動産執行  債務者がマンションや自宅土地建物などの不動産を有している場合、一般的には不動産にはそれ なりの価値があるので、金銭債権を回収する強制執行の対象としては、有効な目的物です。  この不動産への強制執行にも2種類あり、①強制競売と②強制管理といわれるものです。本稿で は強制競売だけを解説し、強制管理は、別途の機会に研究解説予定です。  ①の強制競売は、不動産そのものを競売に付してその売却代金を債権者に配当するものであるの に対し、②の強制管理は、債務者の有する不動産(例えば建物)が賃貸に供されていて、そこから 月々賃料などの収入が生じている場合、その収益を債務の弁済に充当する執行方法です。(1) 対象についての留意点  いずれにしても債務者がこのような価値のある不動産を所有していなければ執行できないことに なりますから、まず、債務者の財産調査が必要になります。財産調査の方法にも弁護士としての力 量によって差が生じることが多いと思われますし、複数財産があるときにどの財産(不動産)につ いて執行申し立てをするのがよいかなど、弁護士の力量が問われます。  仮に、債務者が自宅マンションを持っていたとします。そのマンションの不動産登記を取ってみ ると、住宅ローンによる抵当権が設定されていることが少なくありません。一般に、オーバーロー ンと言われるその不動産の価値よりも抵当権設定された債権者の債権額が高い場合には、この不動 産に強制執行しても、抵当権者の債権回収の方が優先されてしまいますので、強制執行を申し立て た債権者の債権への配当が見込めません。そのような場合には、「無剰余」(強制執行しても配当 が見込めず申し立てた債権者のためにこれ以上執行手続を続行してもしょうがないということ)と して執行手続が取り消されてしまいます。  このように、債務者が不動産を持っているかどか、持っているとしてその不動産は強制執行を申 し立てることにより債権の回収が有効に見込めるかどうかなど、慎重に値踏みする必要があるわけ です。(2)手続についての留意点  1)必要とされる書類    対象不動産が強制執行申立てに有効なものであったとしても、不動産執行を申し立てる際に   は、様々な書類の準備が必要となります。  ①発効後1か月以内の登記事項証明書(物件が更地の場合はその旨上申書)  ②最新の公租公課証明書  ③物件案内図(住宅地図等)  ④公図写し(法務局登記官の認証あるもので1か月以内のもの)  ⑤建物図面(同  上)  ⑥債務者(所有者)の商業登記(全部事項)(法人のとき)あるいは債務者(所有者)の住民票  (自然人のとき)  ⑦不動産競売の進行に関する照会書    上記②対象不動産の公租公課証明書(上記②)を用意する必要があります。これは、固定資   産税や都市計画税等の不動産の負担する税額を記載した証明書で、その不動産の所在地を管轄   する市町村役場(東京都区内では都税事務所)で交付を受けるものです。交付申請をする際に   は、評価額だけを記載した証明書ではなく、税額の記載されたものが必要なので「競売申立書   添付用のもの」を申請する必要があります。債権者がこの公課証明書の申請をする場合には、   不動産競売申立書の写しを用意して、申立書添付のため必要であることを申告する必要があり   ます。    申立書、各目録、添付書類など用意する書面には、提出時に一定通数が必要になりますの   で、裁判所で要求する通数に留意する必要があります。  2) 申立費用   ①申立手数料        請求債権1個につき4000円(収入印紙)その他に裁判所指定の郵券   ②予納費用         不動産の強制競売手続には、この費用の負担が大きいと思われます。債権執行と異なり、執   行官や不動産評価人に支払う手数料がかかるためです。ただし、現実にこれらに要した分は、   配当に当たり売却代金から手続費用として優先的に支払われることになっています。    東京地裁の例:請求債権額を基準に、2000万円未満が60万円、2000万~5000   万未満が100万円、5000万~1億円未満が150万円、1億円~が200万円となって   います。   ③差押登記嘱託のための登録免許税    請求債権額(1000円未満切捨て)の1000分の4の額(3万円超なら国庫金納付書に   よる)    このように、不動産競売の申立てには、様々な書類の準備や申立ての際に必要となる金銭負担が 少なくないことが債権者の申立てのネック、負担となっています。3 債権執行  執行の対象が、債務者が有している債権で、手続としては、まず、その債権を差し押さえる必要 があります。この差押対象債権の種類で、執行対象を分類すると、(1)銀行への預貯金債権、 (2)債務者の勤め先への給与債権、(3)貸金、売掛金等の一般債権になります。  以下では、上記(1)と(2)につきその特色を解説します。(1) 預貯金債権への強制執行    債務者が第三債務者に対して持っている債権を差し押さえて強制執行するのは、不動産執行   や動産執行に比べて比較的容易に債権回収が実現できる手続として、利用されやすい手続で   す。    あくまで申立人である債権者、弁護士への依頼者の立場からのメリット、デメリットをここ   では取り上げているつもりなので、手続の流れの概略は、ここでは不動産執行と同様に省略し   ますが、重要なのは、債権の差押えと言えます。これが功を奏するかどうかで、債権回収の成   否が分かれます。  1) 債権者が債務者の預貯金を差し押さえるためには、第三債務者であるところの銀行名及び    支店名が特定されている必要があります(他人の口座の情報は個人情報としてなかなか捕捉    しにくいので、これが債権執行申立てに際しての債権者である申立人の負担となっていま    す。この点の法改正も現在検討されているところですが、現行は、あくまで支店名まで特定    しないと申立てが却下されてしまいます。)。銀行へ弁護士照会をすると債務者の口座の有    無、どこの支店に口座があるかを答えてくれるといわれますが、やはり面倒なことには変わ    りありません。     債権者が債務者と取引などがあり、債務者の指定銀行など知っていれば効率的ですが、そ    うではないとき、どのように債務者の口座を探索するかも弁護士の技量により差が生じると    ころといえます。ただ、それでも限界のあることは否めません。     預貯金の差押えの場合、申立てに当たって添付する「差押債権目録」の書き方(定型)に    は特色がありますので、この型を踏むのが第一のコツと言えます。  2) 債務者の利用している銀行、支店名が分からず、ある程度広く網を張って大手銀行で債務    者の本店(法人の場合)、住所(自然人の場合)のある近くの支店を特定して申立てること    も少なくありません。その場合、債権差押えが空振りに終わることも少なくないことになり    ます。     この場合でも、ゆうちょ銀行の場合は貯金事務センターが他の銀行の支店に相当するの    で、数が限られており、現行、12か所(地域ごと)にとどまります。また、ネット銀行の    場合には、預金管理が各支店名の付いた支店ごとではなく本社とされるところに集中してお    り、そこに債務者の口座があれば特に支店名の特定は必要となりません(この要領の詳細    は、金融法務事情に不定期に連載されている東京地裁執行センターの「さんまエキスプレ    ス」を参照。)。(2) 給与債権への強制執行    債務者が会社員など何等かの雇用形態にある場合、第三債務者をその勤め先に指定して、定   期的に支給される給与債権を差し押さえるのが有効な債権回収方法です。    ここで、留意する必要があるのは、「差押禁止債権」という概念です。民事執行法が債務者   最低限度の生活を保障するために設けた債権執行における制限です(生活保護費、国民年金、   厚生年金等、ただし、これらが一旦債務者の銀行口座に振り込まれてしますと、差押債権その   ものではなく、預金債権に転化しますので、事情が少し違ってきます。)。    原則として、月例給与債権については、4分の1だけが差押えが可能とされています(それ   以外の4分の3については、33万円を超える場合は、その分も差押えが可能です。)。    その他、養育費等の債権による給料等の債権の差押えの特例がありますが、ここでは割愛し   ます。(3) 各債権執行手続に共通の留意点  1)手続の際、申立人は、第三債務者に対する陳述催告の申立てをする必要があります。    これによって、差押えを申し立てた銀行支店口座に債務者の預貯金が差押時点でいくらあるの  か、あるいは口座がなかったり、口座があっても預金がなかったりという情報が分かることにな  ります。  2)目的とする債務者が持っている債権の差押えができた場合、債権者である申立人は、その債  権の回収を他の債権者を排除して独占するために(他の債権者が素早く債権の届け出をしてきて  しまった場合には、債権金額に応じた回収金の配当という形で受け取れる金額が目減りしてしま  います。)、転付命令を執行裁判所に申し立てることができます。ただし、一旦転付命令が付さ  れると、債務者の第三債務者に対する債権(本件差押債権)そのものが、債務者から債権者のも  のに移転する(債務者は債権を失う)ので、第三債務者が債務を支払う資力がなかったりその債  務の支払い義務について何らかの言い分(抗弁)を有していた場合、支払いを受けることができ  ないリスクを債権者自身が背負い込むことになりますので、転付命令を得るかどうかは慎重に見  極めるべきです。  3)申立費用(詳しくは裁判所ホームページ参照)    申立書に4000円の収入印紙を貼付    郵便切手 2898円(陳述催告申立て込み)        債権者1名増すごとに+1082円        第三債務者1名増すごとに+1642円    転付命令 2282円    このように債権執行の申立ては、不動産執行に比べて予納金が不要なため費用がそれほど多   くかからないで申立てができる手続です。4 弁護士に民事執行を依頼する場合の弁護士報酬について  一般的には、訴訟などを通じて判決や裁判上の和解などの債務名義を裁判所から取得する場合に 弁護士に依頼する弁護士報酬とは、民事執行の依頼は別のものです。そのため、依頼者が弁護士事 務所に民事執行の相談を持ち込まれる場合にも次のとおり一定のパターンがあります。 (1) 既に判決や公正証書などの債務名義を有していて、これに基づいてその後の民事執行のみ    を弁護士に相談する場合 (2) さらに上記(1)よりも細かく特定の債務名義に基づいて特定の目的物への強制執行を依    頼相談する場合 (3) 既に訴訟提起や公正証書作成の段階から弁護士に依頼していて、それに引き続き当該債務    名義について民事執行の依頼をする場合 などです。  上記(1)以外の(2)や(3)の場合には、  まず、訴訟事件の下記各金額を基準に 着手金     事件の経済的な利益の額が     300 万円以下の場合 経済的利益の 8%      300 万円を超え 3000 万円以下の場合 5%+9 万円          3000万円を超え3億円以下の場合 3%+69万円          3 億円を超える場合 2%+369 万円   ※着手金の最低額は 10 万円  成功報酬金   事件の経済的な利益の額が        300 万円以下の場合 経済的利益の 16%       300 万円を超え 3000 万円以下の場合 10%+18 万円       3000 万円を超え 3 億円以下の場合 6%+138 万円       3 億円を超える場合 4%+738 万円 (旧)日弁連の報酬基準にしたがい、民事執行の項目で 「※本案事件と併せて受任したときでも本案事件とは別に受けることができる。」としていて  この場合の着手金は,訴訟事件の 3 分の 1 ※着手金の最低額は 5 万円  民事執行事件としては、 着手金として、訴訟事件の着手金の額の 2 分の 1             成功報酬金として、訴訟事件の報酬金の額の 4 分の 1ということになるのが通常とされています。 しかし、これはあくまで目安であり、本案訴訟とその後の民事執行、それらを相談の段階でどこまで見越して受任を受けるかにもよるものと思われます。 特に、(1)のパターンである最初から事件の相談・受任を受けている場合には、依頼者が依頼弁護士とよく相談し、事件の難易度、債権回収の難易度に沿った上記基準額の調整をした上で弁護士は委任を受けることになります。                               (文責 弁護士 福島政幸)      

不動産任意売却に当たって(チェック項目)

0 不動産任売だけなら業者へ?では、その他債務整理を伴う場合はどうか。  皆さんが、所有の自宅等の不動産を任意売却する事情は、さまざまです。  単純に、当該不動産を任意売却して、ローン残高分の弁済に充てるだけであれば、弁護 士に依頼してまで手間をかける必要はないかもしれません。  しかし、多くの場合、そのような単純な事情による必要のケースは少なく、住宅ローン の残高債務が残ったり、そのほかの債務整理の必要もあるケースがほとんどではないでし ょうか。  このような場合、やはり弁護士の交渉力に依拠して、経済生活の再建を図ることが一般 的です。ご自身で、この交渉等を行っても債権者は債務整理に応じてくれなかったり、債 務者である皆さんにとって過酷で不利益な条件を提示してくることも考えられます。  1 基礎知識 (1) 任意売却専門業者へ依頼したときの仲介手数料   売買価格の3%+60,000円+消費税が上限例:マンションが2000万円で売れた場合  (2000万×0.03+60,000)×1.08=71万2800円が仲介手数料   この仲介手数料は、売却金額から控除される。 (2) このほか、実費等  ・手続のため必要な住民票、印鑑証明、書類郵送料 (・引越費用(任意売却による捻出いかん))  ・滞納マンション管理費、修繕積立金など  ・固定資産税滞納分 (3) 任意売却にかかる費用(売主の持ち出し費用はないのが原則)2 抵当権者(住宅ローン債権者)に対して(主として銀行など) (1) 弁護士が受任して債務整理する場合の手順   受任通知、銀行担当者との折衝   月々のローン支払いについて(ストップいかん) (2) 任意売却のための不動産業者との折衝   専任媒介か一般媒介か   すぐに売れるとは限らない   業者買取だと安く買いたたかれる (3) 上記(1)と(2)の兼ね合い状況についての調整3 本件不動産が、債権者による差押えとそれに続く競売にかかっているかどうか  もし、競売開始決定がされているようなら、急いで当該債権者と任意売却の交渉をし て、裁判所の競売手続の進行を待ってもらう(競売手続の進行状況にもよります)。  任意売却の目途が立ったら、債権者には、競売の申立てを取り下げてもらう(取下げの 期限は、不動産執行の手続上、売却許可決定がなされるまで)。4 税金等の滞納による本件不動産に対する差押え(滞納処分)の有無5 自宅に付いている火災保険等(解約、更新いかん)6 住宅ローンの引落口座 (1) 口座を一旦ゼロにして動きがないようにする (2) 電気・ガス・水道・電話料金などの引落が一緒の場合には、それらを他の銀行の口座  に切り替える7 弁護士に事件処理依頼をする弁護士報酬(着手金等)の用意以上のようなチェック項目に気を付ける必要があります(備忘録)

固定残業代の有効性

 企業が労働者との関係で予め取り決めた労働の対価としての給与支給条件に、月の一定労働時間分に相当する固定残業代が含まれていると主張する場合がよくあります。 例えば、月当たり時間外労働分として20時間、同じく月当たり深夜手当分として10時間などといった形で取り決めた場合です。 このような労使間の取り決めが、裁判上に持ち出された場合、有効と認められるには、どのような要件をクリアーしていなければならないのか。 一般的には、(1)明確区分性、(2)対価性、(3)差額分支払の合意の3つが挙げられます。(3)は、当然のことなので、むしろ、(1)と(2)がポイントになると考えられます。1 明確区分性とは  定額残業代として支給することを決めている賃金分が、他の給与(基本給や業績給など)と区別して取り決められていること、すなわち、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金に当たる部分との判別が可能であること  代表的な、裁判例としては、テックジャパン事件(最高裁H24.3.8)、医療法人 社団康心会事件(最高裁H29.7.7)が有名です。  これらの裁判例は、いずれも、使用者側が主張する固定残業代を割増賃金としては認めなかった事案です。  具体的には、 「労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに労基法37条に反するものではない。」 「割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、・・・労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要」 と判示している。2 対価性とは  固定残業代とされる部分が、それに対応する労働の対価としての実質を有すること  代表的な、裁判例としては、日本ケミカル事件(最高裁H30.7.19)は、原審(東京高裁)が、「いわゆる定額残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」として、労働者の賃金及び付加金の請求を一部認容したのに対し、 「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべきである」 と判示し、上記高裁判断部分を一部破棄して差し戻している。3 分析  固定残業代としての明確区分性及び対価性を満たすためには、労使間の労働契約の内容として、固定残業代がしっかり位置付けられていることが大切 具体的には、① 就業規則あるいはその一部としての賃金規則(給与規程)に、月の何時間に相当する分が当該月当たりのいくらとして、賃金支給されることになっているかが明確であること、② 契約書あるいは、使用者(職制)からの説明等により、上記のような労働条件が明示されていること➂ 実際に勤務した労働者が、給与明細などにより、当月に、自分が勤務した状況に照らして固定残業代として何時間分をいくら支給されているか、これを超過して勤務した場合に、その分はちゃんと超過分として時間外賃金が支払われているかどうか分かる程度のものであること以上が、キーポイントになるものと考えられる。  企業である使用者は、固定残業代に相当する部分を、さまざまな形で給与の中で支給している実態が見受けられる。  例えば、「みなし残業代」とか「勤務手当」等・・・、さらには、基本給の中に含めて支給しているものも見受けられる。  いずれにしても、労働者に「何時間分の固定残業代いくら」という形で分かるものが求められているものというべきであり、裁判で争われたときに、しっかり説明できるような給与体系が構築されていてしかるべきである。  そのためにも、上記労働契約の内容となる規則あるいは契約書ないし労働条件通知書には、これらを明示しておくことが望ましい。  その際には、取り決めの中で、これら所定の固定時間(例えば20時間)を超過して勤務した場合には、その超過分は、別途、割増賃金として支給される旨の明記もしっかりすべきである。                          以上(文責 弁護士 福島政幸)  

離婚に伴う慰謝料と不貞行為の相手方

 これまで、不貞行為の相手方に対して、離婚に伴う慰謝料を請求できるかどうかについては、実務上明確ではなかった。 最近、最高裁平成31年2月19日の判決が出て、「夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない」という裁判例が確立したものといえる。以下、解説する。1 事案  被上告人(X)とその妻Aは夫婦であった。Aは上告人Yと不貞行為に及び、XがYに対し、これにより離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料等の支払いを求めた。   元夫婦  X===A・・・・との不貞行為の相手方Y  X-----------→Yに損害賠償請求2 事実経過  XとA、平成6年3月結婚、 同年8月長男、H7.10月長女出生  X、仕事のため帰宅しないこと多く、  AがYの勤務先会社に入社、H20.12月以降性交渉ない状態  Y、H20.12頃、Aと知り合い、H21.6月以降Aと不貞行為  X、H22.5月頃、不貞関係知る。  A、その頃、Yとの不貞関係解消  A、H26.4月頃、長女大学進学機に、Xと別居、その後半年間、Xのもと帰ることも、Xに連絡取ることもなかった  X、H26.11月頃、横浜家庭裁判所川崎支部に、A相手に夫婦関係調整の調停申立  H27.2.25 調停離婚成立3 原審(東京高裁)の判断  YとAとの不貞行為によりXとAとの婚姻関係が破綻して離婚するに至ったのであるから、Yは、両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、Xは、Yに対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができるとして、XのYへの損害賠償請求を一部認容した。4 最高裁の判断  夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ、  本件は、夫婦ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するもの  離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄  夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、  直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない  第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻環形に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られる  本件についてみると、Yは、Xの妻であったAと不貞行為に及んだものであるが、これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており、離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって、Xは、Yに対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができないというべきである。5 解説  着目すべきは、上記4の判断の傍線箇所(1) 夫婦の一方(X)は、不貞行為あれば、不貞行為の他方(A)に、離婚による慰謝料を 理由とする損害賠償請求が可能(2) Xは、Yに、不貞行為を理由とする不法行為責任(不貞慰謝料の損害賠償責任)を負う 場合がある(3) Yは、Xに対し、直ちには、離婚慰謝料の責任を負うことはない(4) 特段の事情として、Yが意図してXとAとの間の婚姻関係に不当干渉(不貞行為など) した結果、XA間夫婦が離婚になったと評価できる場合には、離婚慰謝料成立余地  以上からは、① Xは、不貞行為を理由とする不法行為による損害賠償(不貞慰謝料)をAとYに請求可 (この場合、AとYは、Xに対し、共同不法行為者となり、連帯責任を負う)② この不法行為による請求の消滅時効は、Xが不貞行為の存在及び相手方を知ったときか ら3年間➂ Xは、離婚時にAに不貞を理由とする離婚請求(民法770条1項1号)及び離婚慰謝 料の請求が可能④ Xは、本件事案のように不貞関係の事実終了後、(3年以上経っているYに対し、)離 婚慰謝料を請求することは、原則としてできない。⑤ ただし、XがYについて、XへのAとの婚姻関係解消を狙って不貞関係を離婚成立時前 までに続けたなどの特段の事情があれば、離婚慰謝料を請求できる余地ありということになると思われます。                                   以上 

相続法改正(その4)(便利な自筆証書遺言)

1 新制度の実施について (1) 新しい自筆証書遺言については、平成31年1月には既に施行されていますので、現  行法として現在機能していることになります。   ただし、施行日(平成31年1月13日)以前になされたもの(自筆証書遺言の作  成)は対象外ということになります。 (2) 自筆証書遺言の遺言書の保管制度は、平成32年7月10日から施行されます。2 新しい自筆証書遺言とは  自筆証書遺言は、従来の自筆証書遺言と同様に、全文、日付及び氏名を自書し、これに 印を押す必要があります。・・・・・ここまでは従来どおり  改正点は、財産目録にあります。  従来は、この目録も自書することが求められていました。反対に言えば、自書でないと 遺言としての効力が生じないということでした。  しかし、新しい自筆証書遺言では、財産目録については、自書する必要がなく、目録自 体は、ワープロなどのパソコン入力によるものや、預貯金通帳のコピーの添付、不動産登 記事項証明書の写しを用いることなどが可能となったことになります。  その際、遺言者は、その目録の各葉(各頁ということ)に署名し、印を押すことが求め られています。  この改正により、遺言者がたくさんの不動産や多岐にわたる種類の預貯金、株式、有価 証券、その他の財産を有している場合に、いちいちそれら各財産の内容を特定するために 自書しなければならない負担が軽減されたことになります。特に不動産の登記情報を逐一 自書しなければならない苦労を考えた場合、だいぶ楽になったと言えるでしょう。3 遺言書の保管制度とは (1) 自筆証書遺言を作成した遺言者は、法務局に保管を申請できます。 (2) 効用(公正証書遺言に代わり、安く手間なく公のものとして保管可能)   これにより、従来のように遺言をいちいち公証人役場で公正証書にしなくても、公の  ものとして自筆証書遺言を機能させることができるわけです。   公正証書遺言を作成するには、公証人に手数料を支払わなければならないのと、公証  人役場で、遺言者の遺言能力の確認や、遺言内容の読み合わせ等による確認が慎重にな  された上で、遺言者がその公正証書遺言を保管するほか、当該公証人役場の公証人にお  いても当該公正証書遺言を保管してくれ、改ざんや偽造の心配のない公のものとして機  能しています。そして、公正証書遺言には、家庭裁判所の検認を経る必要がないメリッ  トもあります。4 保管制度の具体的内容(効用) (1) 遺言者にとってのメリット   今回の自筆証書遺言の保管制度では、  ・ 遺言者みずからが法務局に出頭して、  ・ 遺言保管官(法務局職員)に、  ・ 自筆証書遺言(無封のものに限るとされていることに注意)の保管を、  申請できる。  ・ どこの法務局へ保管申請できるか(管轄)    遺言者の住所、本籍、又は、遺言者が所有する不動産の所在地を管轄するいずれか   の法務局 (2) 遺言者保管官は   遺言書の画像情報、遺言者の氏名・生年月日・住所・本籍、遺言書の作成年月日など  を、遺言書保管ファイルに記録して管理 (3) 相続人等の関係相続人等は  ・ 遺言者の死亡後に  ・ 遺言書情報証明書の交付や遺言書の閲覧を請求できる  ・ この関係相続人等には、    遺言による信託の受益者、帰属権利者、受託者、信託監督人、受益者代理人も含む   また、何人も、  ・ 遺言書保管事実証明書の交付請求可  ・ 遺言書の内容を知ることはできないが、  ・ 遺言書の存在を知ることができる   ※ 遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされると、遺言書保管官は、他の相続    人等に対し、遺言書を保管している旨を通知することになっていることに注意 (4) 家庭裁判所の遺言書の検認手続が不要   従来の自筆証書遺言は、相続人などその遺言の効力を主張したり、遺言執行者におい  てその遺言を執行しようとする場合、家庭裁判所の検認という手続きを経ることが求め  られていました。   しかし、新制度である自筆証書遺言の保管制度を利用すれば、後の上記(3)の関係相続  人等は、公正証書遺言と同様に、遺言書の検認は不要になりました。5 今後期待される機能  自筆証書遺言の遺言書保管制度は、公正証書遺言の作成・保管に代わるものとして、そ れよりもより安価で、利用しやすいものとして機能することが期待される。  身近で利用しやすい遺言ということになります。6 最後に法務省のわかりやすい解説案内(PDF)を貼り付けておきます。                                   以上    

相続法改正その3(預貯金の払戻し)

1 従来の考え方・取扱い  遺産相続が生じ、遺産分割請求として事件が家庭裁判所に調停あるいは審判という形で 係属した場合、民法427条により法律上当然に分割されるところの可分債権ということ で、遺産分割の対象とはならないという考え方(最高裁判決H16.4.20)  ただし、家庭裁判所の実務では、相続人間の合意がある場合に限って遺産分割の対象に なるとされてきました。  上記最高裁の考え方からすると、銀行などにある被相続人の預金は、相続人の法定相続 分に従って当然に分割されたことになるので(これを当然分割という)、各相続人は、自 分の相続分に相当する金銭を上記銀行から下ろせるはずです。  ところが、銀行などの金融機関の実務では、遺産分割協議書などの相続人全員の合意が なければ、預金の払戻しには応じない対応がとられていました。  ここに、裁判所と銀行などの金融機関との間に齟齬が生じていたため、そのはざまで、 相続人たる市民の方々は困惑する状況がありました。  これを受けて、近時、最高裁(H28.12.19決定)は、預貯金さらには現金も含めて、これ らを相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとして(従来の当然分 割の考え方を改め)、遺産分割の対象とする判断(判例変更)をしました。  その結果、被相続人の預貯金については、相続開始後、遺産分割前の払戻しは、共同相 続人全員の合意がなければできないという銀行実務に従うことになったわけです。2 相続人らにとって不都合な実態  被相続人が死亡後、同人の葬儀費用、お墓の手配、相続債務の支払いや相続税の支払い などの必要から被相続人の生前有していた現金や預貯金を下ろして使う必要が生じること があります。  しかし、上記1のような銀行実務から、肝心なときに被相続人の預金口座が相続開始を 知った銀行によっていわば凍結されて、共同相続人全員の合意を証する書面などがないと 払戻しには応じられない旨の対応を示されることになります。  親族や身寄りのない親類の相続を経験したことのある方であれば身をもって体験された こともあるのではないでしょうか。3 今回の法改正(2019年7月施行) (1) 預貯金の払戻し制度の創設   遺産に属する預貯金債権のうち、一定額について、共同相続人全員によらなくとも相  続人のうちの一人による単独での払戻しを認めるものとした。   単独で払戻しができる額=相続開始時の預貯金債権の額×法定相続分   ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは150万円まで (2) 家庭裁判所の保全処分(要件の緩和)   家事事件手続法を改正(家事事件手続法200条3項の新設)し、仮払いの必要性が  あると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の仮払  いの許可を得て、特定の預貯金債権の全部又はその一部を仮に取得させる形で利用でき  ることにした。   従来は、遺産分割の保全処分として、「強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫  の危険を防止するため必要あるとき」といった保全の必要性が厳格で、保全処分を利用  するハードルが高かったのが、緩和されたことになります。   しかし、家庭裁判所の上記保全処分を利用するには、本案事件として遺産分割手続の  申立てが当該裁判所に係属していることが依然として要件とされていることからする  と、利便度は、上記(1)に劣るとは思います。なぜなら、このような要件は、弁護士など  の専門家の代理人が付いていないと利用しにくいからです。 今後、改正後の頻繁な利用が期待されるのは、専門家に依頼することなく、相続人が単独でも利用できる(1)の制度となりましょう。                                      以上     

相続法改正その2(居住用不動産贈与等)

1 改正内容の概要(2019年7月施行)  これまで、被相続人(夫)が生前に、配偶者(妻)へ居住用不動産(例えば、現在同居 しているマンションなど)を贈与していたとすると、現行法では、相続が開始して遺産分 割の場になった際、遺産としての財産の算定において、生前贈与分である上記不動産も相 続財産とみなされて、配偶者は被相続人から遺産の前渡しを受けていたもの(これを「特 別受益」と言います)と取り扱われることになります。  ところが、今回の改正では、被相続人の意思の推定規定(持ち戻しの免除の意思)を設 けて、贈与された上記居住用不動産は、相続開始時の遺産である財産には含めない意思の もとに生前贈与されたものとして、原則として遺産の前渡しを受けたもの(特別受益)と して取り扱う必要がなく、結果として、配偶者は、居住用不動産を除いた遺産を2分の1 の相続分として遺産分割に臨むことができることになります。この点では、遺贈も同様で す。  そのため、婚姻期間が20年以上の夫婦間の居住用不動産の遺贈又は贈与がされた場合 については、原則として遺産分割における配偶者の取り分が増えることになる。2 具体的事例  相続人が配偶者と子2名で、遺産が、居住用不動産(評価額4000万円)のほかその他の財産として6000万円が存在するとします。  居住用不動産は、2分の1ずつ夫婦が共有していたと考えられるとすると、夫の持分である2分の1を居住用不動産についての贈与ないし遺贈が妻にあったとします。  そうすると、夫が亡くなったとき、相続が発生し、現行法と改正法では以下のようになります。(1) 現行法    妻である配偶者の取り分    居住用不動産2000万円(被相続人(夫)の持分2分の1)+6000万円=80   00万円    このほかに、生前贈与ないし遺贈にかかる居住用不動産2000万円(妻が夫から   受けた持分2分の1)も遺産に含めて計算されることになる。    その結果、遺産総額1億円で、配偶者(妻)の相続分は2分の1ゆえ、5000万   円、そのうち、既に2000万円分の贈与ないし遺贈による遺産の前渡しがあるの   で、あと3000万円分の取り分が同人にはあることになる。   最終的には、妻の取り分は5000万円になる。(2) 改正法    妻である配偶者の取り分    生前贈与分(遺贈分も同様)である上記2000万円は、相続財産とみなす必要が   なくなる。    その結果、居住用不動産2000万円(被相続人(夫)の持分2分の1)+6000   万円=8000万円が遺産の総額となる。    配偶者(妻)の取り分としては、    8000万円の2分の1ゆえ、4000万円分の取り分が同人にはあることにな   る。    最終的には、妻の取り分は生前贈与分ないし遺贈分も含めると6000万円にな   る。3 文章だけでは、イメージしにくいかもしれません。以下の法務省のウェブを参照してみ てください。上記2の事例を視覚化して説明しています。

自己破産における自由財産(の拡張)とは

 自然人が債務超過ないし支払不能に陥り、負っている債務の免責を得ることを主目的に裁判所へ破産の申立てをする。 破産を申し立てるにも、弁護士報酬を含め一定の費用がかかることは、当事務所ホームページ(http://trout-law.jp)のトピックス(破産・民事再生)の個人破産の項で説明したとおりです。 破産を申し立てる人の中には、自己破産したときに、今ある財産がすべて失われて返済にまわる、とか、銀行などの預貯金、あるいは手持ちの現金が。返済に充てられて全く使えなくなる、といった具合に、考えてしまう方が少なくありません。 しかし、それでは、せっかく破産、債務の免責を申し立てて経済的再生を図ろうとしても、その資金的きっかけがつかめず、再び他から借金をせざるを得なくなるなどして、負債を抱えたり支払不能を繰り返すことになりかねません。 このようなことのないように、破産法は、例え自己破産の申立てをしても、債権者への返済に充てるための破産財団を構成しない財産として、「自由財産」というものを認めています(破産法34条3項)。 破産者は、この自由財産の範囲で、当該財産を自由に管理処分できることから、生活を維持したり、破産・免責後の経済生活の再生のための便宜に充てることができることになります。 以下では、どのようなものが自由財産に該当し、破産者が自由に管理処分できる自由財産の範囲はどこまで認められるのかということについて、破産裁判所の実務に即して解説します。1 自由財産の定義  自由財産とは、破産者の財産のうち、破産財団に属せず、破産者が自由に管理処分できる財産をいいます。2 本来的自由財産 (1) 99万円以下の金銭(現金)(破産法34条3項1号,民事執行法131条3号,同法施行令1条による) (2) 差押禁止財産(民事執行法上のもののほか、特別法にも規定がある)の主なもの  ・ 生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳及び建具  ・ 1か月間の生活に必要な食糧・燃料  ・ 農業・漁業従事者の農具、漁具  ・ 技術者等の業務上必要な器具類(大工道具、理容機具など)  ・ 給料・退職手当(原則4分の3相当分)、なお、中小企業、小規模企業の退職金共済は全額  ・ 民間の年金保険  ・ H3.3.31以前に効力が発生している簡易生命保険契約の保険金又は還付金請求権  ・ 各種保険給付受給権、高額療養費の支給、家族埋葬料の支給  ・ 生活保護受給権、失業等給付受給権、労働者の補償請求権、交通事故被害者の請求権  3 自由財産の拡張 (1) 預貯金   預金は、本来的な自由財産ではありませんが、現金に準じるものとして、一定の範囲で自由財産としての拡張が認められています。 (2) 年金   年金そのものは、差押禁止財産として本来的自由財産ですが、通常、隔月で指定の銀行口座などに振り込まれ、預金となります。こうして銀行預金となった後は、差押禁止財産ではなく、差押えが可能とされています。   年金振込分と合わせて99万円以下であれば自由財産の拡張の範囲内といえます。これが99万円を超える場合には、年金が破産者の今後の生活に不可欠であることを疎明して、自由財産の拡張を申し立てることになります。4 自由財産拡張の手続運用  自由財産拡張の可否(破産裁判所の判断)は、破産管財人の意見を聴いて判断されます。  裁判上の運用(例)  ア 99万円に満つるまでの現金  イ 残高が20万円以下の預貯金  ウ 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金  エ 処分見込価額が20万円以下の自動車  オ 居住用家屋の敷金債権  カ 電話加入権  キ 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権(すなわち支給見込額が160万円以下の退職金)  ク 家財道具  ケ 差押えを禁止されている動産又は債権  上記財産について、同じ項目の財産が複数ある場合は、個々の財産の評価額を合計して得た額を当該項目における評価額とする。 CF. 東京地裁では、自由財産の総額が99万円以下となる場合は比較的緩やかに判断し、99万円を超える場合は慎重に判断される傾向があります。東京地裁においては、上記20万円というような基準の数字はないようです。5 まとめ  いずれにしても、上記のような自由財産を法が予定しているのは、破産者が真に経済的再生を遂げるために必要と考えられるからです。このような定めや運用がないとすると、破産を申し立てる者は、自己の財産状況を真摯に裁判所あるいは破産管財人に申告することが期待できなくなってしまいます。債務の免責後、一文無しから経済生活を始めることが現実的ではないことは明らかです。  それゆえ、破産を申し立てるときに、相談者は、破産申立てを依頼しようとしている弁護士に対しても、上記自由財産制度及び自由財産の拡張制度を十分に理解した上で、正直に自己の財産状態を打ち明けて申立ての相談をするようにしてください。    (文責弁護士福島政幸)       

企業(事業者)民事再生について

 裁判所を介した倒産手続には、大きく分けて、破産と民事再生がある(ここでは、特別清算や会社更生などの特殊・大規模な手続を除外して考察する。また、強制力のない任意整理や裁判所における特定調停もここでは割愛する。)。破産にも、自然人個人としての破産と事業者としての破産があるように、民事再生にも、個人再生事件と一般の民事再生事件とに分けて考察するのが分かり易いと思われる。個人民事再生は、民事再生法ができてから約1年後、小規模個人再生と給与所得者個人再生の各手続が、民事再生法の改正により加わり、2001年4月から施行されています。 個人事業者向けの個人再生手続については、別の機会に解説させていただくこととし、ここでは、一般の民事再生手続について説明したいと思います。 この民事再生は、個人、法人を問わず手続の利用が可能ですが、以下の点に留意が必要です。1 民事再生手続の開始の要件 ① 支払不能に陥るおそれがあること ② 事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務を弁済できないこと2 裁判所へ民事再生を申立てる準備において必要なこと ① 裁判所への予納金納付(負債5000万円未満が200万円、5000万円以上~1億円が300万円など)、他には弁護士に依頼する弁護士費用も準備が必要 ② 申立てから再生計画案の認可までには、約半年ほどかかるので、それを見込んだ事業のための資金繰り計画が必要とされること(向こう6か月間の資金繰り予測) ③ 申立て前に当面の運転資金の用意が必要 ④ 裁判所への申立てに当たって、再生手続に乗せることのできる事案かそうではなく破産手続によらなければならない事案かを見きわめるために(すなわち、再生手続開始の要件にかかわるものとして)求められる書類資料として、収益予測による黒字かどうかということ  ア 申立日前1年間の資金繰り表及び直近3期分の貸借対照表及び損益計算書  イ 上記②のような申立日後6か月間の資金繰り表  ウ 日繰りのシュミレーション ⑤ 保全処分を併せて申し立てる必要の有無   弁済禁止、担保提供禁止の保全処分、不動産の処分禁止、借財禁止の仮処分など3 再生計画案における債務圧縮の目安(再生計画案の作成において必要となる)  一般的には、民事再生手続で、負債総額の3割以下とされ、平均的には1割程度の支払いを5年間ないし7年間くらいの範囲で分割で支払う計画案を作成するイメージ 1) 計画案で圧縮する負債支払額は、清算価値(その企業が破産した場合の換価による配当対象財産額=配当率)以上でなければならないこと 2) 弁済期間は、法文上は10年を超えない期間とされているが、上記のように標準的には5年ないし7年くらいまで 3) 負債増額に比した再生計画案における支払総額、すなわち、弁済率については、特に法文上上限があるわけではない(下限は、上記1)のとおり)が、実務上30パーセント未満、1割~2割程度で、一番多いのは1割程度の支払と思われる。 4) 最終的には、再生計画案が、債権者によって可決されるかどうかにかかっている。    総債権額の過半数、かつ、債権者数(頭数)の半数以上の賛成によって可決される必要    その上で、裁判所が選任した監督委員(破産の管財人と同様に弁護士が選任される)による意見書と併せて再生手続を担当する裁判所(通常は裁判官3人の合議体)が、再生計画案を認可することになる。4 再生計画案が認可された後について 1)再生計画案の実行   再生債務者は確定した再生計画に従って、速やかにその内容を遂行し、監督委員が再生計画の 実行を監督します。 2)再生手続の終結   再生計画の履行が完了したときまたは再生計画認可決定確定後3年間経過時に再生手続は終結する。   それまでの間は、定期的に(通常は、6か月おきくらい)監督委員による再生計画の履行監督に服することになります。そのため、定期的な報告書を裁判所と監督委員に提出し、再生手続中に、再生債務者が、重要な財産の処分及び譲受け・多額の借財・別除権の目的である財産の受戻しなどをする場合、監督委員の履行監督に服することになります。                               以上(文責 弁護士福島政幸)