政幸

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事前求償債権を被保全権利とする保全処分

事例:主債務者である会社が銀行等から借金をした際、連帯保証した個人(当時の会社代表者ほか役員)が、役員を退いた後にも依然として連帯保証人の地位のままにあった場合で、主債務者(会社)が銀行等への借金の分割返済を怠り、当該債権者たる銀行等は、連帯保証人である個人に対して保証債務の履行を求めた来た。 このような場合に、主債務者に未だ何等かの見るべき財産があるときには、債権者の方で、まずはそれら財産に債権を行使してもらいたいところであるが、当該責任財産が預貯金・現金などの流動資産ではなく不動産などであった場合、債権者は、より債権に充当しやすい連帯保証人の財産へ請求権を行使してくることも考えられる。 通常は、主債務者(会社)と連帯保証人(役員)とは一蓮托生の関係で利害反することは考えにくいが、何等かの事情で、役員は退いたものの、連帯保証から外れていないような事態にあるとき、タイトルにあるような問題が生起する。1 基本事項 (1) 民法460条(委託を受けた保証人の事前の求償権)  あらかじめ求償権を行使することができる場合とは;主債務者破産(1号)、保証人に 弁済を命ずる裁判があったとき(3号)などのほか、債務が弁済期にあるとき(2号)と いう要件が存在する。 (2) 民事保全法上の要件  ① 被保全債権の存在  ② 保全の必要性2 事例との関係(特殊性)  主債務者である会社が、銀行等に借入金の分割弁済をしないとき、銀行等からは、連帯 保証人へ債務履行の督促の連絡が来る。  これを受けて、連帯保証した個人はどう対処するべきか。  前記のように、通常は、会社とその役員である個人とは経済的に一体の関係にあるが、 会社の役員から当該個人が排除された場合(役員の解任など)あるいは、会社と委任関係 にある役員個人が合意により役員を退いたような場合に事例のような事態が生起する。  特に、退いた元役員個人と会社(現経営陣)とが敵対・利害対立関係にあるような場 合、連帯保証した個人として、もはや自己のコントロールできない主債務者である会社と の関係で、自己の利益を守る方法として、命題のような事前求償権の問題が出てくる。  余談になるが、連帯保証人の個人が、会社から強制解任され経営から外れる場合には、 会社がある程度健全の経営状況、今後も継続を予定して経営陣を刷新するような場合に は、上記個人は役員の退任と時を同じくして連帯保証人からはずれるのが通常である。銀 行等サイドとしても、会社の財務状況に特に問題がなければ、連帯保証人の交替(旧経営 陣から現経営陣へ)に異を唱えないであろう。  また、連帯保証している役員個人が、任意に(委任契約の合意解消)役員を退任する場 合、上記合意の条件として、当該個人の連帯保証を外してもらうよう交渉するのが通常と いえる。  しかし、特殊性として、必ずしもそのような通常の在り方にならず、役員は退任したも のの連帯保証人の地位はそのままである場合が本命題となる。  会社と敵対している元役員個人間で、それぞれの立場・利害関係を考えてみる。  まず、会社とすれば、仮に、役員更迭の必要が生じた原因が、当該役員にあり、そのた め会社の経営状態も危殆に瀕し、その責任を取るための更迭だとすると、必ずしも、上記 のような通常の在り方としての役員交代による連帯保証人の交替とはならず、少なくと も、銀行等との関係で、役員退任までの責任を全うしてもらう意味で連帯保証人の地位に とどまることはおかしくはないはずだということが考えられる。  その場合でも、退任役員が連帯保証する範囲は、役員退任時までに会社が銀行等に負っ ていた債務の範囲に留まることになろう。  次に、退任役員の立場からすると、会社の経営にもはやタッチしない、できない自らの 立場にかんがみ、会社との委任契約上の債務不履行等による損害賠償の問題はありうるに しても(そのような責任追及は、制度上、会社法で規定されているとおりである。)、無 条件での連帯保証のままということにはいかにも承服しがたい。  仮に、委任契約を合意解約して役員を退任したにもかかわらず、意に反して事後に連帯 保証人としての地位がそのままであったということになると、そもそも委任契約の合意解 約(これ自体が法律行為としての合意)自体に意思表示の瑕疵があったと主張できる余地 も出てくる。具体的には、錯誤無効、詐欺取消等を主張するとともに、役員退任の無効、 依然として会社役員の地位にあることを主張してゆくことになる。3 命題の保全処分の可否(分析検討) (1) 被保全権利について   前記1、(1)及び同(2)①のとおり、分割弁済を怠った主債務者である会社の行為により主  債務の債務不履行である債務が弁済期にあるとき(460条2号)の要件を満たしていれ  ば、理論的には被保全権利の存在は充足する。 (2) 保全の必要性   問題は、事前求償権が成立したとしても、そのこと自体から直ちに保全処分として連  帯保証人である個人が会社の責任財産への仮差押えが可能となるわけではないところに  ある。   仮に、会社の分割返済の主債務不履行が特定月の1回限りであるならば、会社の資力  に問題が兆候と見ることもできず、事前求償の必要も出て来ない。   それゆえ、銀行等に連帯保証債務を負っている退任役員個人が事前求償権を予め主債  務者である会社に行使する必要性ことが保全の必要性ということになり、その事情とし  ては、会社の経済力(責任財産)に問題が生じていること、そのことの徴表として、分  割弁済の利益が失われたことまで必要となるものというべきである。   通常、銀行等から運転資金なりを借り受ける会社は、銀行等と取引約款に基づいて金  銭を借り入れているはずである。   そうすると、連帯保証人において、主債務者に事前求償債権を被保全権利として、主  債務者の責任財産に保全処分としての仮差押えをすることのできる保全の必要性として  は、主債務者が債権者との関係で、債務の履行につき、期限の利益を喪失して一括弁済  を迫られているという状況が生じてはじめて上記要件を満たすと考えるのが良識的であ  る。   そのように期限の利益を喪失する主債務者たる会社は、弁済資力に何らかの問題が生  じていることが想定され、責任財産も危殆に瀕している可能性が高く、この点において  も保全の必要性を満たす。 (3) 事案・事態の分析   具体的・現実的に、上記個人が事前求償債権による主債務者財産への仮差押えを申し  立てる場合、そもそも保全の必要性として、主債務者の責任財産状態として、金銭債権  の弁済資金が枯渇している状況からは、債権差押えたる預貯金債権の仮差押えは現実的  ではない。   主債務者の流動資産には見るべきものはなくとも、不動産を有している場合に命題の  ような実益が出てくる。   弁済に窮した主債務者が、その不動産を安く売り払って弁済資金に充てようとした  り、詐害行為的な行動に出ようとしていたりする場合には、事前求償を連帯保証人にお  いてしておく実益があるものと考えられる。                以上                            文責 弁護士 福島政幸                        

事件の共同受任(承ります)

対象事務所 個人事務所の弁護士          共同事務所(弁護士が複数居る)からのご依頼は遠慮させていただき         ます          他の職種(司法書士、社会保険労務士など他士業)との共同受任は致         しません)          個人弁護士事務所であれば、都内あるいは近県を問わず対象事件  基本的には、すべての民事事件に対応     (刑事事件は非対応)          ただし、知的財産関係事件を除く受任方法  原則:共同受任          依頼者と面談等しない間接受任は致しません          事情によって、復代理人としての受任打合せ方法 応相談          出張、電話会議、事件資料のFAX、メール添付(スキャン)、パソコン         のSkype(スカイプ使用)など報酬    基本:折半         (ただし、遠方の場合、交通費、日当等のご負担をお願い         することがあります)      事務分担内容、事務量の比率等に応じて      応相談受任できない場合  当事者名、事件の具体的内容等の開示のない抽象的な委任事務          上記を前提とした具体的事件につき利益相反の有無を審査          弁護士懲戒(職務停止等)を受けた方からの引継事件以上を前提に、事件の性質によって手に余るとお考えの事件、弁証法的議論を要したり、多角的視点から検討を要する事件、事務分担を要する事件等につき、個人事務所の弁護士の先生方とお互いの経験を生かした弁護士業務を目指したいと考えています。 ご連絡は、当事務所への直接電話問合せのほか、下記メルアドにても承ります。∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞トラウト法律事務所 TEL 03-5903-8940 FAX 03-5903-8941          弁護士 福 島 政 幸 http://trout-law.jp mail ja-fukushima@trout-law.jp∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞          

自己破産申立時の注意事項(預貯金について)

自己破産申立ての際、それまで契約している預貯金口座の取扱いには注意を要する。 破産申立て事件を担当していて、近時の破産申立て(主として東京地裁)は、生活保護を受けていたり、働いておらず新たな収入が見込めないような申立人の場合を除いて、そのほとんどが破産管財事件(同時廃止事件ではないという意味)にまわされる。 破産管財事件になると、裁判所が任命する破産管財人(弁護士)が、申立人の財産を管理し精査することになり、破産申立時までの破産者の財産はすべて破産管財人の管理下に置かれる。 そのときに破産者の銀行などの口座も基本的には破産管財人の管理下に置かれる。 破産を申し立てるときに、破産者の代理人弁護士は、事前に破産を申し立てる際に受任通知と債権者調査票を銀行等に送っており、その時点で破産者の債務の支払がストップしていること、裁判所による破産開始決定後、破産裁判所から知れたる債権者である銀行等へ破産開始決定通知が債権届出通知とともに送られることにより、この時点で、破産者の銀行等の口座は凍結されるのが通常です。 もっとも、破産者の預貯金先の銀行等に破産者が債務を負っておらず、預貯金債権だけがある場合には、債権者への破産通知は行かないので、口座が即座に凍結されることはないかもしれませんが、通常、破産者は預貯金と相殺される借金も同時に存在するケースが多いので、ほとんどの場合に即凍結となりますし、そうでないとしても、破産開始決定後は上記のように破産管財人の管理下に破産者の積極財産としての預貯金も置かれるので、やはり破産者が任意に下ろすことはできないという意味で口座凍結されることに変わりはありません。 このように、破産を申し立てた破産者は、申立時までの財産の管理権を失うのですが、他方、このような破産申立人にも申立後も一般人としての社会生活は引き続き行われるわけで、破産者がサラリーマンであったら、破産申立後も給与がこれまでどおり指定の銀行口座に振り込まれたり、児童手当などの公的交付金も同様に振り込まれてきます。 このような破産開始決定後に新たに破産者が取得する財産のことを新得財産と言います。 この新得財産は、本来は、上記のように破産申立後も続き破産者の生活のために破産者は、自由に使えるのが原則です(破産管財人が管理する財産ではないという意味)。 しかるに、上記のような破産申立てによって凍結されてしまった口座に給与や公的給付金が振り込まれると、その建前に反して、破産者が自由に使えない、すなわち口座からお金を下ろせない事態となってしまいます。1 実際の取扱い  凍結された口座から、新得財産を下ろしたい場合には、破産申立代理人弁護士を通じ て、破産管財人及び凍結口座の銀行等に、一時的な口座凍結の解除を申し出なければなり ません。  それも一度限りであればそれほど手間ではないのですが、毎月の給与とか数か月に一度 振り込まれる交付金などは、その都度、上記金融機関と交渉して凍結解除を申し出なけれ ばならないので煩瑣となります。  破産開始決定から債権者集会が開かれて、破産手続が終結するまでには、破産管財事件 の場合には、早くても数か月(その間、管財人が破産者の財産状況を調査して換価の対象 となる財産を探索する必要等)はかかるため、このような煩瑣な状況に遭うことになりま す。  毎月振り込まれることが分かっている場合には、破産申立前までの振込み先ではなく、 現金で直接受け取るとか、新たな凍結されていない口座を設けてそこを振込み先とするな どの対応を取る方が便宜かもしれません。2 予めの対策(考えられること)  上記1のような不便を事前回避する方法としては、破産を申し立てる前に、凍結される と分かっている銀行等の口座に振込みがなされないようにすることが可能であれば、そう しておく方がよいと思われます。  ただし、破産申立前に既に設けている口座は、前記のようにすべて破産開始決定後は破 産管財人の管理下に置かれるわけですから、任意に破産者が預貯金を下ろせない点では変 わりがありません。  要は、破産開始決定後に破産者が新たな口座を銀行等と契約して設けることができるか どうか。それが難しいようだと、結局現金で受け取るしかないことになってきます。  本来、生活資金としての給与債権は、差押え禁止財産(差押え限度が4分の1まで)と されていますし、児童手当や年金なども差押えそのものが禁止されているものです。  しかし、一旦、破産名義の口座に振り込まれると、そのほかの差押え可能な預貯金と混 ざって差押え禁止の対象ではなくなってしまうという意味で、上記のような取扱いがなさ れていることになります。  致し方のないものとして、煩瑣を厭わず対応してゆくしかないところもあります。  ただ、いざ破産を申し立てた後にこのようなことになることを承知していないと、生活 費に困ったり面食らうことになるので注意しておいた方がよいと思います。                             文責 弁護士 福島政幸 

新しい自筆証書遺言の運用について

 法改正及び新たな法律により自筆証書遺言が利用しやすくなりました。1 改正情報 (1) 改正法律:民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72  号。平成30年7月6日成立。)   施行日:平成31年1月13日に施行(既に施行されています。)   適用:上記施行日以降に作成される自筆証書遺言(施行日前に作成されたものには新  法は適用されません)   改正の概要:民法968条第2項により   自筆証書によって遺言をする場合でも,例外的に,自筆証書に相続財産の全部又は一  部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自  書しなくてもよいことになります。   ただし、自書によらない財産目録を添付する場合には,遺言者は,その財産目録の各  頁に署名押印をしなければならないこととされています。 (2) 新たな法律:法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73  号。以下「遺言書保管法」といいます。)   施行日:令和2年7月10日   法律の概要:ポイントは下記アンダーライン箇所○ 遺言書の保管の申請 • 保管の申請の対象となるのは,民法第968条の自筆証書によってした遺言(自筆証書遺言)に係る遺言書のみです(第1条)。また,遺言書は,封のされていない法務省令で定める様式(別途定める予定です。)に従って作成されたものでなければなりません(第4条第2項)。• 遺言書の保管に関する事務は,法務局のうち法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において,遺言書保管官として指定された法務事務官が取り扱います(第2条,第3条)。• 遺言書の保管の申請は,遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所の遺言書保管官に対してすることができます(第4条第3項)。• 遺言書の保管の申請は,遺言者が遺言書保管所に自ら出頭して行わなければなりません。その際,遺言書保管官は,申請人が本人であるかどうかの確認をします(第4条第6項,第5条)。○ 遺言書保管官による遺言書の保管及び情報の管理 • 保管の申請がされた遺言書については,遺言書保管官が,遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります(第6条第1項,第7条第1項)。○ 遺言者による遺言書の閲覧,保管の申請の撤回 • 遺言者は,保管されている遺言書について,その閲覧を請求することができ,また,遺言書の保管の申請を撤回することができます(第6条,第8条)。保管の申請が撤回されると,遺言書保管官は,遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去します(第8条第4項)。• 遺言者の生存中は,遺言者以外の方は,遺言書の閲覧等を行うことはできません。○ 遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等 • 特定の死亡している者について,自己(請求者)が相続人,受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます(第10条)。• 遺言者の相続人,受遺者等は,遺言者の死亡後,遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます(第9条)。• 遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは,速やかに,当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人,受遺者及び遺言執行者に通知します(第9条第5項)。○ 遺言書の検認の適用除外 • 遺言書保管所に保管されている遺言書については, 遺言書の検認(民法第1004条第1項)の規定は,適用されません(第11条)。○ 手数料 • 遺言書の保管の申請,遺言書の閲覧請求,遺言書情報証明書又は遺言書保管事実証明書の交付の請求をするには,手数料を納める必要があります(第12条)。上記文章だけでは分かりにくいので、法務省ホームページのチラシを画像として添付しておきます。

トラック運送事業と働き方改革関連法(要点)

 働き改革関連法が、今年の4月から施行される中、最近、運送事業における労働時間管理の問題や未払い残業代の記事を目にする。 トラックドライバーの労働時間管理は、以前より難しい問題とされてきた。例えば、みなし残業代とか残業代の固定支給など、他業種でも導入されている管理手法が、この業種でも適正妥当にあてはまるものなのかという命題に代表される。 以下では、まず、これまでのトラック運送業における労働時間管理上の規制(第1)、次に、今般施行された働き方改革関連法における運送事業における労働時間管理上の問題(第2)を取り上げる。第1 トラックドライバーの労働時間管理に関する法令1 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働省)=改善基準告示 (1) 拘束事件と休憩時間の関係  ・荷の積み込みや前の業者に次ぐ積荷待ちなどの手待ち時間は、休憩時間ではなく、拘   束時間(=労働事件)であること  ・拘束時間=労働時間+休憩時間(仮眠時間を含む)  ・1日のうち、休息期間以外が拘束時間 (2) 拘束時間の限度(休息時間の確保)  (1日と1週間の拘束時間の限度)  ・1日の拘束時間は、13時間以内。延長する場合でも16時間が限度。  ・1日の休息時間は、継続8時間以上。  ・1日の拘束時間の延長につき、15時間を超える回数は、1週間につき2回まで。  ・休息時間が9時間未満となる回数は、1週間につき2回まで。  (1か月と1年の拘束時間の限度)  ・1か月の拘束時間は293時間以内。  ・毎月の拘束時間の限度を定める労使協定を書面で締結した場合、   1年のうち、6か月まで1年間の拘束時間が3,616時間(293時間×12か月)を超えない   範囲内で、1か月の拘束時間を320時間まで延長可。  (3) 運転時間の限度  ・運転時間には、連続運転時間、1日の運転時間、1週間の運転時間がある。   ①連続運転時間:1回連続10分以上、かつ、合計30分以上連続した運転   ②1日の運転時間:1日の最大運転時間は、2日を平均して、1日当たり9時間以内   ③1週間の運転時間:2週間を平均して1週44時間を超えないこと  ・1回の連続運転時間は、4時間以内。  ・運転の中断には、1回連続10分以上、かつ合計30分以上の運転離脱が必要。   (そのため、運行計画作成に当たっては、4時間30分を一単位(運転時間4時間と   運転離脱時間30分)にして作成すべき)  ・運転時間は、2日で18時間まで(1日最大16時間ゆえ、実際は14時間30分ま   で)、かつ2週間で88時間まで。 (4) 時間外労働および休日労働の限度  ・上記運転時間の限度設定は、時間外労働の労使協定(36協定)が前提  ・所定労働時間+休憩時間+時間外労働≦1日総拘束時間16時間  ・時間外労働≦16時間-8時間-1時間=7時間  ・所定労働時間+休憩時間+時間外労働+休日労働≦1か月原則293時間(特例320時   間)  ・休日労働≦293時間(特例320時間)-(所定労働時間+休憩時間+時間外労働) (5) 特例通達(次の①ないし④の場合)   ①業務の必要上、勤務の終了後8時間以上の休息期間を与えることが困難   ②自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合   ③自動車運転者が隔日勤務に就く場合   ④自動車運転者がフェリーに乗船する場合   ・休息期間の特例    「当分の間、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に、休息時間を拘束時    間の途中および拘束時間の経過直後に分割して与えることができるものとする。」    1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上    ただし、フェリーに2時間以上乗船する場合には不適用   ・二人乗務(ベッド付き)の場合の特例    1日の最大拘束時間を20時間まで延長可。    1日の合計休息時間を4時間まで短縮可。    ただし、1か月の拘束時間は293時間以内。   ・隔日勤務の場合の特例(業務上の必要上やむを得ない場合、当分の間)    二暦日における拘束時間は、21時間を超えないこと    勤務終了後、継続20時間以上の休息時間を与えること    ただし、事業場内仮眠施設または使用者が確保した同種の施設において、夜間に4時    間以上の仮眠時間を与える場合には、2週間に3回を限度に24時間まで延長可   (この場合でも2週間の総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えないこ    と)。   ・フェリーに乗船する場合の特例    乗船時間のうち、2時間については拘束時間扱い、その他の時間は休息期間扱い。    乗船時間が2時間を超える場合、休息期間とされた時間を休息期間8時間(二人乗    務の場合4時間、隔日勤務の場合20時間)から減じること可。第2 働き方改革関連法における運送事業における労働時間管理上の規制1 残業時間上限規制  原則 月45時間、年360時間  最大 月100時間未満(含休日労働) 複数月平均80時間(同左)、年720時間     ※年6か月まで月45時間超えが可能として  ただし、自動車運転業務については、5年猶予期間あり。適用開始後も年960時間の  上限時間が適用される。2 年次有給休暇年5日取得義務(2019年4月から施行)  すべての企業に対して、年10日以上の有給休暇を付与した日から1年以内に、本人の  希望を踏まえた日程で、最低でも5日の有給休暇を取得させることが義務付けられた。  不実行には、労働者1人あたり最高30万円の罰金が企業に課される。3 勤務間インターバル(努力義務)  前日の終業と翌日の始業時刻との間に、一定時間の休息を確保するもの。  詳細は省略4 産業医・産業保健機能の強化(安全衛生関係)  医師による面接指導等(詳細は省略)  5 企業規模ごとの施行(残業時間上限規制)  大企業  2019年4月1日から  中小企業 2020年4月1日から6 運送業についての猶予  5年間の猶予期間が設けられている。  2019年4月1日に施行される改正労働基準法の一般則とは別枠で、2024年4月1日から適用 となる、運送業に向けた働き方改革関連法案が制定された。具体的には、一般則施行から5 年間の猶予期間が設けられたほか、36協定による例外措置が、月平均80時間となる年間960 時間とされた。以下には参考ウェブを紹介しておく。① http://blog-t.com/3000-2 「トラックの社」

預貯金口座の預貯金(遺産)の払戻し

 被相続人が亡くなり、相続が発生し、遺産の中に預貯金があったとします。 相続人が、あなたの他にも居る場合(要するに単独相続ではない場合)、これまでの実務では、相続人間で遺産分割協議をして合意書(遺産分割協議書)を作成し、その中に上記預貯金についての合意が明確になっていないと、預貯金を預かっている銀行などは、相続人からの預貯金の払戻しには応じてくれませんでした。1 このような従来の取扱いから生じる困った事例 ア 相続人らの間で遺産分割について話し合いが整わないため、遺産分割協議書が作成で  きない イ 他の相続人と没交渉であったり、所在がつかめず、遺産分割協議書が作成できない ウ 遺産分割協議の前提となる相続人が誰なのか判然としない、特に親戚付合いのない被  相続人が死亡し、相続人の一人に自分が入ることは分かったが、被相続人の親族関係を  知らないため、他にどのような相続人が何人いるのかもよくわからない エ 相続人らは、何とか戸籍などをたどれば把握できるものの、高齢の被相続人には、多  数の兄弟姉妹あるいは子らがいて、さらにそれらの者にも死亡により再転相続が発生す  るなどして、あまりにも多くの相続人が存在するため、遺産分割協議そのものが難しいなどなど2 上記1のような事例から、相続人の一人として、例えば、あまり身寄りのない被相続人 と数少ない付合いをしてきた者として、最後を見取り、葬儀やお墓の手配等をしてあげよ うとしても、自腹を切ってそれら費用を立て替えたのに、その分のお金を被相続人の預貯 金から賄いたいのにかなわないといった不都合が多々あるのが、これまでによく見られた ケースです。3 今回の相続法改正(新しい預貯金の払戻し制度) (1) 預貯金の一定割合について家庭裁判所の判断を経ずに単独で払戻しが受けられる。   例えば、被相続人に600万円の預金があったとします。   被相続人の相続人は、子である長女、長男及び次男の3人だったとします。   その場合、長男は、単独で以下の払戻しができます。  相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×(3分の1)×払戻しを受ける共同相続人の 法定相続分  600万円×(3分の1)×(法定相続分3分の1)=66万6666円(1円未満切捨 て)  ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは、150万円までとされているの で、上記長男の方は、150万円以下ゆえ、66万6666円(1円未満切捨て)の払戻 しを受けることができることになります。  このように払戻しに上限金額が設けられ、しかも、最初から相続開始時の債権額の3分 の1としているのは、この制度は、主として葬儀費用支払のための資金需要に対応するこ とを想定したものだからです。 (2) 預貯金債権については、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和   上記(1)以上の金額のお金が必要なときに備えて、被相続人の遺産である預貯金から仮  払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家  庭裁判所の判断で仮払いが認められることになった。  * 小口の資金需要には(1)を、限度額を超えるような資金需要があるときには、(2)が利   用されることを想定しています。4 弁護士に相談し、利用することのメリット ・ 相続人の探索(戸籍謄本の取寄せ等) ・ 3、(1)の小口預貯金の払戻しの銀行に申し出るにも、自分の法定相続分がどれだけとな  かを銀行に明らかにすることが求められることが予想されます。   弁護士から相続樹系図などを作成してもらい、戸籍謄本などの書証を添えて、自己の  法定相続分を明らかにした上で、求めることがスムーズな払戻しにつながる。 ・ 遠方の銀行との交渉などを弁護士依頼することにより煩瑣な手続の負担がなくて済  む。など                                     以 上      

民事執行の実務(~強制執行について)

はじめに 民事執行の手続は、大きく分けて2種類があります。判決などの債務名義を持っている債権者が、債務者に対して行う(1)強制執行手続と、法律の定め(例えば法定先取特権や留置権など)や契約(抵当権や質権など)で設定した担保権に基づいて行う(2)担保権実行の競売手続です。 (1)は、判決に代表されるように裁判所による判断や執行証書と呼ばれる公証人による公正証書といった公的機関が作成した文書に基づいて権利が強制的に実現されるものであるのに対し、(2)は、借金の債務を担保するために貸主である債権者が借主である債務者の不動産などの財産の上に抵当権を設定する場合のように、契約や合意を基礎として担保権という優先的権利が債務者の財産の上に存在することを前提にその私的権利に基づいて実行されるものです。 いずれも裁判所(管轄地方裁判所の執行部門)を通じて実行される手続であることには変わりありません。 以下では、このうち(1)の強制執行手続についてまとめの解説をします。1 強制執行の種類(執行の目的物による分類)  強制執行にも色々な分類があり、例えば、債務者への強制の在り方の違いにより、直接強制と間接強制、金銭の支払を目的とするかどうかにより、金銭執行と非金銭執行など、その分類にしたがった手続の特色があります。  このうち、普段よく使われる強制執行は、債権者が債務者に対して持っている債権(金銭債権が代表的)を回収する手段として利用されるのが通常であることから、金銭執行かつ直接強制ということになりますが、その執行対象物によって、(1)不動産に対する執行(不動産執行)、(2)動産に対する執行(動産執行)、(3)預貯金などの債務者が銀行などの第三債務者に対して有している債権に対する執行(債権執行)などに分類することができます。  さらに、このうち良く利用されるのは、(1)不動産執行と(3)債権執行なので、以下では、この2つに焦点を当てて解説します。2 不動産執行  債務者がマンションや自宅土地建物などの不動産を有している場合、一般的には不動産にはそれなりの価値があるので、金銭債権を回収する強制執行の対象としては、有効な目的物です。  この不動産への強制執行にも2種類あり、①強制競売と②強制管理といわれるものです。本稿では強制競売だけを解説し、強制管理は、別途の機会に研究解説予定です。  ①の強制競売は、不動産そのものを競売に付してその売却代金を債権者に配当するものであるのに対し、②の強制管理は、債務者の有する不動産(例えば建物)が賃貸に供されていて、そこから月々賃料などの収入が生じている場合、その収益を債務の弁済に充当する執行方法です。(1) 対象についての留意点  いずれにしても債務者がこのような価値のある不動産を所有していなければ執行できないことになりますから、まず、債務者の財産調査が必要になります。財産調査の方法にも弁護士としての力量によって差が生じることが多いと思われますし、複数財産があるときにどの財産(不動産)について執行申し立てをするのがよいかなど、弁護士の力量が問われます。  仮に、債務者が自宅マンションを持っていたとします。そのマンションの不動産登記を取ってみると、住宅ローンによる抵当権が設定されていることが少なくありません。一般に、オーバーローンと言われるその不動産の価値よりも抵当権設定された債権者の債権額が高い場合には、この不動産に強制執行しても、抵当権者の債権回収の方が優先されてしまいますので、強制執行を申し立てた債権者の債権への配当が見込めません。そのような場合には、「無剰余」(強制執行しても配当が見込めず申し立てた債権者のためにこれ以上執行手続を続行してもしょうがないということ)として執行手続が取り消されてしまいます。  このように、債務者が不動産を持っているかどか、持っているとしてその不動産は強制執行を申し立てることにより債権の回収が有効に見込めるかどうかなど、慎重に値踏みする必要があるわけです。(2)手続についての留意点  1)必要とされる書類    対象不動産が強制執行申立てに有効なものであったとしても、不動産執行を申し立てる際には、様々な書類の準備が必要となります。  ①発効後1か月以内の登記事項証明書(物件が更地の場合はその旨上申書)  ②最新の公租公課証明書  ③物件案内図(住宅地図等)  ④公図写し(法務局登記官の認証あるもので1か月以内のもの)  ⑤建物図面(同  上)  ⑥債務者(所有者)の商業登記(全部事項)(法人のとき)あるいは債務者(所有者)の住民票(自然人のとき)  ⑦不動産競売の進行に関する照会書    上記②対象不動産の公租公課証明書(上記②)を用意する必要があります。これは、固定資産税や都市計画税等の不動産の負担する税額を記載した証明書で、その不動産の所在地を管轄する市町村役場(東京都区内では都税事務所)で交付を受けるものです。交付申請をする際には、評価額だけを記載した証明書ではなく、税額の記載されたものが必要なので「競売申立書添付用のもの」を申請する必要があります。債権者がこの公課証明書の申請をする場合には、不動産競売申立書の写しを用意して、申立書添付のため必要であることを申告する必要があります。    申立書、各目録、添付書類など用意する書面には、提出時に一定通数が必要になりますので、裁判所で要求する通数に留意する必要があります。  2) 申立費用   ①申立手数料        請求債権1個につき4000円(収入印紙)その他に裁判所指定の郵券   ②予納費用         不動産の強制競売手続には、この費用の負担が大きいと思われます。債権執行と異なり、執行官や不動産評価人に支払う手数料がかかるためです。ただし、現実にこれらに要した分は、配当に当たり売却代金から手続費用として優先的に支払われることになっています。    東京地裁の例:請求債権額を基準に、2000万円未満が60万円(その後改定により80万円)、2000万~5000万未満が100万円、5000万~1億円未満が150万円、1億円~が200万円となっています。   ③差押登記嘱託のための登録免許税    請求債権額(1000円未満切捨て)の1000分の4の額(3万円超なら国庫金納付書による)    このように、不動産競売の申立てには、様々な書類の準備や申立ての際に必要となる金銭負担が少なくないことが債権者の申立てのネック、負担となっています。3 債権執行  執行の対象が、債務者が有している債権で、手続としては、まず、その債権を差し押さえる必要があります。この差押対象債権の種類で、執行対象を分類すると、(1)銀行への預貯金債権、(2)債務者の勤め先への給与債権、(3)貸金、売掛金等の一般債権になります。  以下では、上記(1)と(2)につきその特色を解説します。(1) 預貯金債権への強制執行    債務者が第三債務者に対して持っている債権を差し押さえて強制執行するのは、不動産執行や動産執行に比べて比較的容易に債権回収が実現できる手続として、利用されやすい手続です。    あくまで申立人である債権者、弁護士への依頼者の立場からのメリット、デメリットをここでは取り上げているつもりなので、手続の流れの概略は、ここでは不動産執行と同様に省略しますが、重要なのは、債権の差押えと言えます。これが功を奏するかどうかで、債権回収の成否が分かれます。  1) 債権者が債務者の預貯金を差し押さえるためには、第三債務者であるところの銀行名及び支店名が特定されている必要があります(他人の口座の情報は個人情報としてなかなか捕捉しにくいので、これが債権執行申立てに際しての債権者である申立人の負担となっています。この点の法改正も現在検討されているところですが、現行は、あくまで支店名まで特定しないと申立てが却下されてしまいます。)。銀行へ弁護士照会をすると債務者の口座の有無、どこの支店に口座があるかを答えてくれるといわれますが、やはり面倒なことには変わりありません。     債権者が債務者と取引などがあり、債務者の指定銀行など知っていれば効率的ですが、そうではないとき、どのように債務者の口座を探索するかも弁護士の技量により差が生じるところといえます。ただ、それでも限界のあることは否めません。     預貯金の差押えの場合、申立てに当たって添付する「差押債権目録」の書き方(定型)には特色がありますので、この型を踏むのが第一のコツと言えます。  2) 債務者の利用している銀行、支店名が分からず、ある程度広く網を張って大手銀行で債務者の本店(法人の場合)、住所(自然人の場合)のある近くの支店を特定して申立てることも少なくありません。その場合、債権差押えが空振りに終わることも少なくないことになります。     この場合でも、ゆうちょ銀行の場合は貯金事務センターが他の銀行の支店に相当するので、数が限られており、現行、12か所(地域ごと)にとどまります。また、ネット銀行の場合には、預金管理が各支店名の付いた支店ごとではなく本社とされるところに集中しており、そこに債務者の口座があれば特に支店名の特定は必要となりません(この要領の詳細は、金融法務事情に不定期に連載されている東京地裁執行センターの「さんまエキスプレス」を参照。)。(2) 給与債権への強制執行    債務者が会社員など何等かの雇用形態にある場合、第三債務者をその勤め先に指定して、定期的に支給される給与債権を差し押さえるのが有効な債権回収方法です。    ここで、留意する必要があるのは、「差押禁止債権」という概念です。民事執行法が債務者最低限度の生活を保障するために設けた債権執行における制限です(生活保護費、国民年金、厚生年金等、ただし、これらが一旦債務者の銀行口座に振り込まれてしますと、差押債権そのものではなく、預金債権に転化しますので、事情が少し違ってきます。)。    原則として、月例給与債権については、4分の1だけが差押えが可能とされています(それ以外の4分の3については、33万円を超える場合は、その分も差押えが可能です。)。    その他、養育費等の債権による給料等の債権の差押えの特例がありますが、ここでは割愛します。(3) 各債権執行手続に共通の留意点  1)手続の際、申立人は、第三債務者に対する陳述催告の申立てをする必要があります。    これによって、差押えを申し立てた銀行支店口座に債務者の預貯金が差押時点でいくらあるのか、あるいは口座がなかったり、口座があっても預金がなかったりという情報が分かることになります。  2)目的とする債務者が持っている債権の差押えができた場合、債権者である申立人は、その債権の回収を他の債権者を排除して独占するために(他の債権者が素早く債権の届け出をしてきてしまった場合には、債権金額に応じた回収金の配当という形で受け取れる金額が目減りしてしまいます。)、転付命令を執行裁判所に申し立てることができます。ただし、一旦転付命令が付されると、債務者の第三債務者に対する債権(本件差押債権)そのものが、債務者から債権者のものに移転する(債務者は債権を失う)ので、第三債務者が債務を支払う資力がなかったりその債務の支払い義務について何らかの言い分(抗弁)を有していた場合、支払いを受けることができないリスクを債権者自身が背負い込むことになりますので、転付命令を得るかどうかは慎重に見極めるべきです。  3)申立費用(詳しくは裁判所ホームページ参照)    申立書に4000円の収入印紙を貼付    郵便切手 2898円(陳述催告申立て込み)        債権者1名増すごとに+1082円        第三債務者1名増すごとに+1642円    転付命令 2282円    このように債権執行の申立ては、不動産執行に比べて予納金が不要なため費用がそれほど多くかからないで申立てができる手続です。4 弁護士に民事執行を依頼する場合の弁護士報酬について  一般的には、訴訟などを通じて判決や裁判上の和解などの債務名義を裁判所から取得する場合に弁護士に依頼する弁護士報酬とは、民事執行の依頼は別のものです。そのため、依頼者が弁護士事務所に民事執行の相談を持ち込まれる場合にも次のとおり一定のパターンがあります。 (1) 既に判決や公正証書などの債務名義を有していて、これに基づいてその後の民事執行のみを弁護士に相談する場合 (2) さらに上記(1)よりも細かく特定の債務名義に基づいて特定の目的物への強制執行を依頼相談する場合 (3) 既に訴訟提起や公正証書作成の段階から弁護士に依頼していて、それに引き続き当該債務名義について民事執行の依頼をする場合 などです。  上記(1)以外の(2)や(3)の場合には、  まず、訴訟事件の下記各金額を基準に 着手金     事件の経済的な利益の額が     300 万円以下の場合 経済的利益の 8%      300 万円を超え 3000 万円以下の場合 5%+9 万円          3000万円を超え3億円以下の場合 3%+69万円          3 億円を超える場合 2%+369 万円   ※着手金の最低額は 10 万円  成功報酬金   事件の経済的な利益の額が        300 万円以下の場合 経済的利益の 16%       300 万円を超え 3000 万円以下の場合 10%+18 万円       3000 万円を超え 3 億円以下の場合 6%+138 万円       3 億円を超える場合 4%+738 万円 (旧)日弁連の報酬基準にしたがい、民事執行の項目で 「※本案事件と併せて受任したときでも本案事件とは別に受けることができる。」としていて この場合の着手金は,訴訟事件の 3 分の 1 ※着手金の最低額は 5 万円  民事執行事件としては、 着手金として、訴訟事件の着手金の額の 2 分の 1             成功報酬金として、訴訟事件の報酬金の額の 4 分の 1ということになるのが通常とされています。 しかし、これはあくまで目安であり、本案訴訟とその後の民事執行、それらを相談の段階でどこまで見越して受任を受けるかにもよるものと思われます。 特に、(1)のパターンである最初から事件の相談・受任を受けている場合には、依頼者が依頼弁護士とよく相談し、事件の難易度、債権回収の難易度に沿った上記基準額の調整をした上で弁護士は委任を受けることになります。                          (文責 弁護士 福島政幸)