自己破産申立時の注意事項(預貯金について)
自己破産申立ての際、それまで契約している預貯金口座の取扱いには注意を要する。
破産申立て事件を担当していて、近時の破産申立て(主として東京地裁)は、生活保護を受けていたり、働いておらず新たな収入が見込めないような申立人の場合を除いて、そのほとんどが破産管財事件(同時廃止事件ではないという意味)にまわされる。
破産管財事件になると、裁判所が任命する破産管財人(弁護士)が、申立人の財産を管理し精査することになり、破産申立時までの破産者の財産はすべて破産管財人の管理下に置かれる。
そのときに破産者の銀行などの口座も基本的には破産管財人の管理下に置かれる。
破産を申し立てるときに、破産者の代理人弁護士は、事前に破産を申し立てる際に受任通知と債権者調査票を銀行等に送っており、その時点で破産者の債務の支払がストップしていること、裁判所による破産開始決定後、破産裁判所から知れたる債権者である銀行等へ破産開始決定通知が債権届出通知とともに送られることにより、この時点で、破産者の銀行等の口座は凍結されるのが通常です。
もっとも、破産者の預貯金先の銀行等に破産者が債務を負っておらず、預貯金債権だけがある場合には、債権者への破産通知は行かないので、口座が即座に凍結されることはないかもしれませんが、通常、破産者は預貯金と相殺される借金も同時に存在するケースが多いので、ほとんどの場合に即凍結となりますし、そうでないとしても、破産開始決定後は上記のように破産管財人の管理下に破産者の積極財産としての預貯金も置かれるので、やはり破産者が任意に下ろすことはできないという意味で口座凍結されることに変わりはありません。
このように、破産を申し立てた破産者は、申立時までの財産の管理権を失うのですが、他方、このような破産申立人にも申立後も一般人としての社会生活は引き続き行われるわけで、破産者がサラリーマンであったら、破産申立後も給与がこれまでどおり指定の銀行口座に振り込まれたり、児童手当などの公的交付金も同様に振り込まれてきます。
このような破産開始決定後に新たに破産者が取得する財産のことを新得財産と言います。
この新得財産は、本来は、上記のように破産申立後も続き破産者の生活のために破産者は、自由に使えるのが原則です(破産管財人が管理する財産ではないという意味)。
しかるに、上記のような破産申立てによって凍結されてしまった口座に給与や公的給付金が振り込まれると、その建前に反して、破産者が自由に使えない、すなわち口座からお金を下ろせない事態となってしまいます。
1 実際の取扱い
凍結された口座から、新得財産を下ろしたい場合には、破産申立代理人弁護士を通じ
て、破産管財人及び凍結口座の銀行等に、一時的な口座凍結の解除を申し出なければなり
ません。
それも一度限りであればそれほど手間ではないのですが、毎月の給与とか数か月に一度
振り込まれる交付金などは、その都度、上記金融機関と交渉して凍結解除を申し出なけれ
ばならないので煩瑣となります。
破産開始決定から債権者集会が開かれて、破産手続が終結するまでには、破産管財事件
の場合には、早くても数か月(その間、管財人が破産者の財産状況を調査して換価の対象
となる財産を探索する必要等)はかかるため、このような煩瑣な状況に遭うことになりま
す。
毎月振り込まれることが分かっている場合には、破産申立前までの振込み先ではなく、
現金で直接受け取るとか、新たな凍結されていない口座を設けてそこを振込み先とするな
どの対応を取る方が便宜かもしれません。
2 予めの対策(考えられること)
上記1のような不便を事前回避する方法としては、破産を申し立てる前に、凍結される
と分かっている銀行等の口座に振込みがなされないようにすることが可能であれば、そう
しておく方がよいと思われます。
ただし、破産申立前に既に設けている口座は、前記のようにすべて破産開始決定後は破
産管財人の管理下に置かれるわけですから、任意に破産者が預貯金を下ろせない点では変
わりがありません。
要は、破産開始決定後に破産者が新たな口座を銀行等と契約して設けることができるか
どうか。それが難しいようだと、結局現金で受け取るしかないことになってきます。
本来、生活資金としての給与債権は、差押え禁止財産(差押え限度が4分の1まで)と
されていますし、児童手当や年金なども差押えそのものが禁止されているものです。
しかし、一旦、破産名義の口座に振り込まれると、そのほかの差押え可能な預貯金と混
ざって差押え禁止の対象ではなくなってしまうという意味で、上記のような取扱いがなさ
れていることになります。
致し方のないものとして、煩瑣を厭わず対応してゆくしかないところもあります。
ただ、いざ破産を申し立てた後にこのようなことになることを承知していないと、生活
費に困ったり面食らうことになるので注意しておいた方がよいと思います。
文責 弁護士 福島政幸
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