預貯金口座の預貯金(遺産)の払戻し
被相続人が亡くなり、相続が発生し、遺産の中に預貯金があったとします。
相続人が、あなたの他にも居る場合(要するに単独相続ではない場合)、これまでの実務では、相続人間で遺産分割協議をして合意書(遺産分割協議書)を作成し、その中に上記預貯金についての合意が明確になっていないと、預貯金を預かっている銀行などは、相続人からの預貯金の払戻しには応じてくれませんでした。
1 このような従来の取扱いから生じる困った事例
ア 相続人らの間で遺産分割について話し合いが整わないため、遺産分割協議書が作成で
きない
イ 他の相続人と没交渉であったり、所在がつかめず、遺産分割協議書が作成できない
ウ 遺産分割協議の前提となる相続人が誰なのか判然としない、特に親戚付合いのない被
相続人が死亡し、相続人の一人に自分が入ることは分かったが、被相続人の親族関係を
知らないため、他にどのような相続人が何人いるのかもよくわからない
エ 相続人らは、何とか戸籍などをたどれば把握できるものの、高齢の被相続人には、多
数の兄弟姉妹あるいは子らがいて、さらにそれらの者にも死亡により再転相続が発生す
るなどして、あまりにも多くの相続人が存在するため、遺産分割協議そのものが難しい
などなど
2 上記1のような事例から、相続人の一人として、例えば、あまり身寄りのない被相続人
と数少ない付合いをしてきた者として、最後を見取り、葬儀やお墓の手配等をしてあげよ
うとしても、自腹を切ってそれら費用を立て替えたのに、その分のお金を被相続人の預貯
金から賄いたいのにかなわないといった不都合が多々あるのが、これまでによく見られた
ケースです。
3 今回の相続法改正(新しい預貯金の払戻し制度)
(1) 預貯金の一定割合について家庭裁判所の判断を経ずに単独で払戻しが受けられる。
例えば、被相続人に600万円の預金があったとします。
被相続人の相続人は、子である長女、長男及び次男の3人だったとします。
その場合、長男は、単独で以下の払戻しができます。
相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×(3分の1)×払戻しを受ける共同相続人の
法定相続分
600万円×(3分の1)×(法定相続分3分の1)=66万6666円(1円未満切捨
て)
ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは、150万円までとされているの
で、上記長男の方は、150万円以下ゆえ、66万6666円(1円未満切捨て)の払戻
しを受けることができることになります。
このように払戻しに上限金額が設けられ、しかも、最初から相続開始時の債権額の3分
の1としているのは、この制度は、主として葬儀費用支払のための資金需要に対応するこ
とを想定したものだからです。
(2) 預貯金債権については、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和
上記(1)以上の金額のお金が必要なときに備えて、被相続人の遺産である預貯金から仮
払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家
庭裁判所の判断で仮払いが認められることになった。
* 小口の資金需要には(1)を、限度額を超えるような資金需要があるときには、(2)が利
用されることを想定しています。
4 弁護士に相談し、利用することのメリット
・ 相続人の探索(戸籍謄本の取寄せ等)
・ 3、(1)の小口預貯金の払戻しの銀行に申し出るにも、自分の法定相続分がどれだけとな
かを銀行に明らかにすることが求められることが予想されます。
弁護士から相続樹系図などを作成してもらい、戸籍謄本などの書証を添えて、自己の
法定相続分を明らかにした上で、求めることがスムーズな払戻しにつながる。
・ 遠方の銀行との交渉などを弁護士依頼することにより煩瑣な手続の負担がなくて済
む。など
以 上
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