民事執行の実務(~強制執行について)

はじめに

 民事執行の手続は、大きく分けて2種類があります。判決などの債務名義を持っている債権者が、債務者に対して行う(1)強制執行手続と、法律の定め(例えば法定先取特権や留置権など)や契約(抵当権や質権など)で設定した担保権に基づいて行う(2)担保権実行の競売手続です。

 (1)は、判決に代表されるように裁判所による判断や執行証書と呼ばれる公証人による公正証書といった公的機関が作成した文書に基づいて権利が強制的に実現されるものであるのに対し、(2)は、借金の債務を担保するために貸主である債権者が借主である債務者の不動産などの財産の上に抵当権を設定する場合のように、契約や合意を基礎として担保権という優先的権利が債務者の財産の上に存在することを前提にその私的権利に基づいて実行されるものです。

 いずれも裁判所(管轄地方裁判所の執行部門)を通じて実行される手続であることには変わりありません。

 以下では、このうち(1)の強制執行手続についてまとめの解説をします。

1 強制執行の種類(執行の目的物による分類)

  強制執行にも色々な分類があり、例えば、債務者への強制の在り方の違いにより、直接強制と間接強制、金銭の支払を目的とするかどうかにより、金銭執行と非金銭執行など、その分類にしたがった手続の特色があります。

  このうち、普段よく使われる強制執行は、債権者が債務者に対して持っている債権(金銭債権が代表的)を回収する手段として利用されるのが通常であることから、金銭執行かつ直接強制ということになりますが、その執行対象物によって、(1)不動産に対する執行(不動産執行)、(2)動産に対する執行(動産執行)、(3)預貯金などの債務者が銀行などの第三債務者に対して有している債権に対する執行(債権執行)などに分類することができます。

  さらに、このうち良く利用されるのは、(1)不動産執行と(3)債権執行なので、以下では、この2つに焦点を当てて解説します。

2 不動産執行

  債務者がマンションや自宅土地建物などの不動産を有している場合、一般的には不動産にはそれなりの価値があるので、金銭債権を回収する強制執行の対象としては、有効な目的物です。

  この不動産への強制執行にも2種類あり、①強制競売と②強制管理といわれるものです。本稿では強制競売だけを解説し、強制管理は、別途の機会に研究解説予定です。

  ①の強制競売は、不動産そのものを競売に付してその売却代金を債権者に配当するものであるのに対し、②の強制管理は、債務者の有する不動産(例えば建物)が賃貸に供されていて、そこから月々賃料などの収入が生じている場合、その収益を債務の弁済に充当する執行方法です。

(1) 対象についての留意点

  いずれにしても債務者がこのような価値のある不動産を所有していなければ執行できないことになりますから、まず、債務者の財産調査が必要になります。財産調査の方法にも弁護士としての力量によって差が生じることが多いと思われますし、複数財産があるときにどの財産(不動産)について執行申し立てをするのがよいかなど、弁護士の力量が問われます。

  仮に、債務者が自宅マンションを持っていたとします。そのマンションの不動産登記を取ってみると、住宅ローンによる抵当権が設定されていることが少なくありません。一般に、オーバーローンと言われるその不動産の価値よりも抵当権設定された債権者の債権額が高い場合には、この不動産に強制執行しても、抵当権者の債権回収の方が優先されてしまいますので、強制執行を申し立てた債権者の債権への配当が見込めません。そのような場合には、「無剰余」(強制執行しても配当が見込めず申し立てた債権者のためにこれ以上執行手続を続行してもしょうがないということ)として執行手続が取り消されてしまいます。

  このように、債務者が不動産を持っているかどか、持っているとしてその不動産は強制執行を申し立てることにより債権の回収が有効に見込めるかどうかなど、慎重に値踏みする必要があるわけです。

(2)手続についての留意点

  1)必要とされる書類

    対象不動産が強制執行申立てに有効なものであったとしても、不動産執行を申し立てる際には、様々な書類の準備が必要となります。

  ①発効後1か月以内の登記事項証明書(物件が更地の場合はその旨上申書)

  ②最新の公租公課証明書

  ③物件案内図(住宅地図等)

  ④公図写し(法務局登記官の認証あるもので1か月以内のもの)

  ⑤建物図面(同  上)

  ⑥債務者(所有者)の商業登記(全部事項)(法人のとき)あるいは債務者(所有者)の住民票(自然人のとき)

  ⑦不動産競売の進行に関する照会書

    上記②対象不動産の公租公課証明書(上記②)を用意する必要があります。これは、固定資産税や都市計画税等の不動産の負担する税額を記載した証明書で、その不動産の所在地を管轄する市町村役場(東京都区内では都税事務所)で交付を受けるものです。交付申請をする際には、評価額だけを記載した証明書ではなく、税額の記載されたものが必要なので「競売申立書添付用のもの」を申請する必要があります。債権者がこの公課証明書の申請をする場合には、不動産競売申立書の写しを用意して、申立書添付のため必要であることを申告する必要があります。

    申立書、各目録、添付書類など用意する書面には、提出時に一定通数が必要になりますので、裁判所で要求する通数に留意する必要があります。

  2) 申立費用

   ①申立手数料    

    請求債権1個につき4000円(収入印紙)その他に裁判所指定の郵券

   ②予納費用     

    不動産の強制競売手続には、この費用の負担が大きいと思われます。債権執行と異なり、執行官や不動産評価人に支払う手数料がかかるためです。ただし、現実にこれらに要した分は、配当に当たり売却代金から手続費用として優先的に支払われることになっています。

    東京地裁の例:請求債権額を基準に、2000万円未満が60万円(その後改定により80万円)、2000万~5000万未満が100万円、5000万~1億円未満が150万円、1億円~が200万円となっています。

   ③差押登記嘱託のための登録免許税

    請求債権額(1000円未満切捨て)の1000分の4の額(3万円超なら国庫金納付書による)

  

  このように、不動産競売の申立てには、様々な書類の準備や申立ての際に必要となる金銭負担が少なくないことが債権者の申立てのネック、負担となっています。

3 債権執行

  執行の対象が、債務者が有している債権で、手続としては、まず、その債権を差し押さえる必要があります。この差押対象債権の種類で、執行対象を分類すると、(1)銀行への預貯金債権、(2)債務者の勤め先への給与債権、(3)貸金、売掛金等の一般債権になります。

  以下では、上記(1)と(2)につきその特色を解説します。

(1) 預貯金債権への強制執行

    債務者が第三債務者に対して持っている債権を差し押さえて強制執行するのは、不動産執行や動産執行に比べて比較的容易に債権回収が実現できる手続として、利用されやすい手続です。

    あくまで申立人である債権者、弁護士への依頼者の立場からのメリット、デメリットをここでは取り上げているつもりなので、手続の流れの概略は、ここでは不動産執行と同様に省略しますが、重要なのは、債権の差押えと言えます。これが功を奏するかどうかで、債権回収の成否が分かれます。

  1) 債権者が債務者の預貯金を差し押さえるためには、第三債務者であるところの銀行名及び支店名が特定されている必要があります(他人の口座の情報は個人情報としてなかなか捕捉しにくいので、これが債権執行申立てに際しての債権者である申立人の負担となっています。この点の法改正も現在検討されているところですが、現行は、あくまで支店名まで特定しないと申立てが却下されてしまいます。)。銀行へ弁護士照会をすると債務者の口座の有無、どこの支店に口座があるかを答えてくれるといわれますが、やはり面倒なことには変わりありません。

     債権者が債務者と取引などがあり、債務者の指定銀行など知っていれば効率的ですが、そうではないとき、どのように債務者の口座を探索するかも弁護士の技量により差が生じるところといえます。ただ、それでも限界のあることは否めません。

     預貯金の差押えの場合、申立てに当たって添付する「差押債権目録」の書き方(定型)には特色がありますので、この型を踏むのが第一のコツと言えます。

  2) 債務者の利用している銀行、支店名が分からず、ある程度広く網を張って大手銀行で債務者の本店(法人の場合)、住所(自然人の場合)のある近くの支店を特定して申立てることも少なくありません。その場合、債権差押えが空振りに終わることも少なくないことになります。

     この場合でも、ゆうちょ銀行の場合は貯金事務センターが他の銀行の支店に相当するので、数が限られており、現行、12か所(地域ごと)にとどまります。また、ネット銀行の場合には、預金管理が各支店名の付いた支店ごとではなく本社とされるところに集中しており、そこに債務者の口座があれば特に支店名の特定は必要となりません(この要領の詳細は、金融法務事情に不定期に連載されている東京地裁執行センターの「さんまエキスプレス」を参照。)。

(2) 給与債権への強制執行

    債務者が会社員など何等かの雇用形態にある場合、第三債務者をその勤め先に指定して、定期的に支給される給与債権を差し押さえるのが有効な債権回収方法です。

    ここで、留意する必要があるのは、「差押禁止債権」という概念です。民事執行法が債務者最低限度の生活を保障するために設けた債権執行における制限です(生活保護費、国民年金、厚生年金等、ただし、これらが一旦債務者の銀行口座に振り込まれてしますと、差押債権そのものではなく、預金債権に転化しますので、事情が少し違ってきます。)。

    原則として、月例給与債権については、4分の1だけが差押えが可能とされています(それ以外の4分の3については、33万円を超える場合は、その分も差押えが可能です。)。

    その他、養育費等の債権による給料等の債権の差押えの特例がありますが、ここでは割愛します。

(3) 各債権執行手続に共通の留意点

  1)手続の際、申立人は、第三債務者に対する陳述催告の申立てをする必要があります。 

   これによって、差押えを申し立てた銀行支店口座に債務者の預貯金が差押時点でいくらあるのか、あるいは口座がなかったり、口座があっても預金がなかったりという情報が分かることになります。

  2)目的とする債務者が持っている債権の差押えができた場合、債権者である申立人は、その債権の回収を他の債権者を排除して独占するために(他の債権者が素早く債権の届け出をしてきてしまった場合には、債権金額に応じた回収金の配当という形で受け取れる金額が目減りしてしまいます。)、転付命令を執行裁判所に申し立てることができます。ただし、一旦転付命令が付されると、債務者の第三債務者に対する債権(本件差押債権)そのものが、債務者から債権者のものに移転する(債務者は債権を失う)ので、第三債務者が債務を支払う資力がなかったりその債務の支払い義務について何らかの言い分(抗弁)を有していた場合、支払いを受けることができないリスクを債権者自身が背負い込むことになりますので、転付命令を得るかどうかは慎重に見極めるべきです。

  3)申立費用(詳しくは裁判所ホームページ参照)

    申立書に4000円の収入印紙を貼付

    郵便切手 2898円(陳述催告申立て込み)

        債権者1名増すごとに+1082円

        第三債務者1名増すごとに+1642円

    転付命令 2282円

    このように債権執行の申立ては、不動産執行に比べて予納金が不要なため費用がそれほど多くかからないで申立てができる手続です。

4 弁護士に民事執行を依頼する場合の弁護士報酬について

  一般的には、訴訟などを通じて判決や裁判上の和解などの債務名義を裁判所から取得する場合に弁護士に依頼する弁護士報酬とは、民事執行の依頼は別のものです。そのため、依頼者が弁護士事務所に民事執行の相談を持ち込まれる場合にも次のとおり一定のパターンがあります。

 (1) 既に判決や公正証書などの債務名義を有していて、これに基づいてその後の民事執行のみを弁護士に相談する場合

 (2) さらに上記(1)よりも細かく特定の債務名義に基づいて特定の目的物への強制執行を依頼相談する場合

 (3) 既に訴訟提起や公正証書作成の段階から弁護士に依頼していて、それに引き続き当該債務名義について民事執行の依頼をする場合 などです。

  上記(1)以外の(2)や(3)の場合には、

  まず、訴訟事件の下記各金額を基準に

 着手金     事件の経済的な利益の額が

     300 万円以下の場合 経済的利益の 8% 

     300 万円を超え 3000 万円以下の場合 5%+9 万円

          3000万円を超え3億円以下の場合 3%+69万円

          3 億円を超える場合 2%+369 万円 

  ※着手金の最低額は 10 万円

  成功報酬金   事件の経済的な利益の額が 

       300 万円以下の場合 経済的利益の 16%

       300 万円を超え 3000 万円以下の場合 10%+18 万円

       3000 万円を超え 3 億円以下の場合 6%+138 万円

       3 億円を超える場合 4%+738 万円

 (旧)日弁連の報酬基準にしたがい、民事執行の項目で

 「※本案事件と併せて受任したときでも本案事件とは別に受けることができる。」としていて この場合の着手金は,訴訟事件の 3 分の 1 ※着手金の最低額は 5 万円

  民事執行事件としては、 着手金として、訴訟事件の着手金の額の 2 分の 1

             成功報酬金として、訴訟事件の報酬金の額の 4 分の 1

ということになるのが通常とされています。

 しかし、これはあくまで目安であり、本案訴訟とその後の民事執行、それらを相談の段階でどこまで見越して受任を受けるかにもよるものと思われます。

 特に、(1)のパターンである最初から事件の相談・受任を受けている場合には、依頼者が依頼弁護士とよく相談し、事件の難易度、債権回収の難易度に沿った上記基準額の調整をした上で弁護士は委任を受けることになります。

                          (文責 弁護士 福島政幸)  

 

 

 

 


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