トラック運送事業と働き方改革関連法(要点)

 働き改革関連法が、今年の4月から施行される中、最近、運送事業における労働時間管理の問題や未払い残業代の記事を目にする。

 トラックドライバーの労働時間管理は、以前より難しい問題とされてきた。例えば、みなし残業代とか残業代の固定支給など、他業種でも導入されている管理手法が、この業種でも適正妥当にあてはまるものなのかという命題に代表される。

 以下では、まず、これまでのトラック運送業における労働時間管理上の規制(第1)、次に、今般施行された働き方改革関連法における運送事業における労働時間管理上の問題(第2)を取り上げる。

第1 トラックドライバーの労働時間管理に関する法令

1 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働省)=改善基準告示

 (1) 拘束事件と休憩時間の関係

  ・荷の積み込みや前の業者に次ぐ積荷待ちなどの手待ち時間は、休憩時間ではなく、拘
   束時間(=労働事件)であること

  ・拘束時間=労働時間+休憩時間(仮眠時間を含む)

  ・1日のうち、休息期間以外が拘束時間

 (2) 拘束時間の限度(休息時間の確保)

  (1日と1週間の拘束時間の限度)

  ・1日の拘束時間は、13時間以内。延長する場合でも16時間が限度。

  ・1日の休息時間は、継続8時間以上。

  ・1日の拘束時間の延長につき、15時間を超える回数は、1週間につき2回まで。

  ・休息時間が9時間未満となる回数は、1週間につき2回まで。

  (1か月と1年の拘束時間の限度)

  ・1か月の拘束時間は293時間以内。

  ・毎月の拘束時間の限度を定める労使協定を書面で締結した場合、

   1年のうち、6か月まで1年間の拘束時間が3,616時間(293時間×12か月)を超えない

   範囲内で、1か月の拘束時間を320時間まで延長可。 

 (3) 運転時間の限度

  ・運転時間には、連続運転時間、1日の運転時間、1週間の運転時間がある。

   ①連続運転時間:1回連続10分以上、かつ、合計30分以上連続した運転

   ②1日の運転時間:1日の最大運転時間は、2日を平均して、1日当たり9時間以内

   ③1週間の運転時間:2週間を平均して1週44時間を超えないこと

  ・1回の連続運転時間は、4時間以内。

  ・運転の中断には、1回連続10分以上、かつ合計30分以上の運転離脱が必要。
   (そのため、運行計画作成に当たっては、4時間30分を一単位(運転時間4時間と
   運転離脱時間30分)にして作成すべき)

  ・運転時間は、2日で18時間まで(1日最大16時間ゆえ、実際は14時間30分ま
   で)、かつ2週間で88時間まで。

 (4) 時間外労働および休日労働の限度

  ・上記運転時間の限度設定は、時間外労働の労使協定(36協定)が前提

  ・所定労働時間+休憩時間+時間外労働≦1日総拘束時間16時間

  ・時間外労働≦16時間-8時間-1時間=7時間

  ・所定労働時間+休憩時間+時間外労働+休日労働≦1か月原則293時間(特例320時
   間)

  ・休日労働≦293時間(特例320時間)-(所定労働時間+休憩時間+時間外労働)

 (5) 特例通達(次の①ないし④の場合)

   ①業務の必要上、勤務の終了後8時間以上の休息期間を与えることが困難

   ②自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合

   ③自動車運転者が隔日勤務に就く場合

   ④自動車運転者がフェリーに乗船する場合

   ・休息期間の特例

    「当分の間、一定期間における全勤務回数の2分の1を限度に、休息時間を拘束時
    間の途中および拘束時間の経過直後に分割して与えることができるものとする。」

    1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上

    ただし、フェリーに2時間以上乗船する場合には不適用

   ・二人乗務(ベッド付き)の場合の特例

    1日の最大拘束時間を20時間まで延長可。

    1日の合計休息時間を4時間まで短縮可。

    ただし、1か月の拘束時間は293時間以内。

   ・隔日勤務の場合の特例(業務上の必要上やむを得ない場合、当分の間)

    二暦日における拘束時間は、21時間を超えないこと

    勤務終了後、継続20時間以上の休息時間を与えること

    ただし、事業場内仮眠施設または使用者が確保した同種の施設において、夜間に4時
    間以上の仮眠時間を与える場合には、2週間に3回を限度に24時間まで延長可
   (この場合でも2週間の総拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えないこ

    と)。

   ・フェリーに乗船する場合の特例

    乗船時間のうち、2時間については拘束時間扱い、その他の時間は休息期間扱い。

    乗船時間が2時間を超える場合、休息期間とされた時間を休息期間8時間(二人乗
    務の場合4時間、隔日勤務の場合20時間)から減じること可。

第2 働き方改革関連法における運送事業における労働時間管理上の規制

1 残業時間上限規制

  原則 月45時間、年360時間

  最大 月100時間未満(含休日労働) 複数月平均80時間(同左)、年720時間

     ※年6か月まで月45時間超えが可能として

  ただし、自動車運転業務については、5年猶予期間あり。適用開始後も年960時間の

  上限時間が適用される。

2 年次有給休暇年5日取得義務(2019年4月から施行)

  すべての企業に対して、年10日以上の有給休暇を付与した日から1年以内に、本人の
  希望を踏まえた日程で、最低でも5日の有給休暇を取得させることが義務付けられた。

  不実行には、労働者1人あたり最高30万円の罰金が企業に課される。

3 勤務間インターバル(努力義務)

  前日の終業と翌日の始業時刻との間に、一定時間の休息を確保するもの。

  詳細は省略

4 産業医・産業保健機能の強化(安全衛生関係)

  医師による面接指導等(詳細は省略)  

5 企業規模ごとの施行(残業時間上限規制)

  大企業  2019年4月1日から

  中小企業 2020年4月1日から

6 運送業についての猶予

  5年間の猶予期間が設けられている。

  2019年4月1日に施行される改正労働基準法の一般則とは別枠で、2024年4月1日から適用
 となる、運送業に向けた働き方改革関連法案が制定された。具体的には、一般則施行から5
 年間の猶予期間が設けられたほか、36協定による例外措置が、月平均80時間となる年間960
 時間とされた。

以下には参考ウェブを紹介しておく。

① http://blog-t.com/3000-2 「トラックの社」

② 全日本トラック協会の働き方改革特設ページ参考ウェブhttp://jta.or.jp/rodotaisaku/hatarakikata/hatarakikata_tokusetsu.html

働き方改革特設ページ | 全日本トラック協会

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