貸金・売掛金その他代金の回収(債権回収)
1 債権回収が思うようにいかないパターン類型
(1) 売買や請負契約で、売主や請負人が買主や注文者に対して代金債権があるのに、支払いを受け
ることができていないがあります。
・ 契約内容に問題はなかったか
条件付きであるとか、代金支払時期や方法の約定のしかたがどうであったか。他の品物と
の抱き合わせ売買であったり、請負では完成品の検収が済んでからという契約内容の場合
に、よく見られます。
・ 商品、納品に瑕疵がある場合
買主、注文者から代金支払が留保される典型的なパターンです。
極端な場合としては、債務者からの契約解除、さらには損害賠償などまで主張されること
があります。
・ 債務者サイドの経済的事情
端的に、債務者に代金を支払う資力(財産)がない場合です。
大きな金額の取引の場合には、事前に保全を図っておく必要があります。
まず、商品が債務者の手元にある場合には、動産であれば取り返したり、引き上げる。そ
のための法律上の根拠として、所有権留保を付けておいたり、先取特権や質権を主張するこ
とが考えられます。建物など不動産の場合も、引き渡しを代金支払と同時履行の関係に置い
たり、所有権移転登記と同時履行としたり、先取特権、留置権などを主張することが考えら
れます。
(2) 賃貸借契約の賃料不払いなどもよくあるパターンです。
この場合も、借主からの賃貸物件への不満、例えば、雨漏りなどの修繕箇所を大家さんが直し
てくれないなどといったとき、賃料の支払を留保されるケースです。
このほかに、上記同様に、賃借人に手持ちのお金がない場合もよく見受けられます。
(3) 知人間での貸金トラブル
もっともよくある事例としては、友人にお金を貸したのに、契約書がなくて、しかも、借主で
ある友人からは、もう少し待ってくれなどといって一向に返してくれない場合などです。
2 さて、これら債務者からは、どうやって債権を回収したらよいでしょうか。
契約類型ごとに異なる対応も考えられるところですが、まず、共通して対応できるとこ
ろから紹介しますと、
(1) 書面による支払催告(なるべく内容証明で)
支払期限の定めのない場合には、期限到来の効果をもたらします。
(2) 当事者間の交渉による書面による支払合意約束
当初の契約が口頭であったり、契約書面を交わしていない場合には、後の裁判もにらんで証拠
化を図っておくことが大切です。
準消費貸借の形で、現在負っている債権債務金額の確認、その支払方法(一括か分割など)、
利息の約定、遅延損害金の約束などをなるべく具体的に取り決めておきましょう。
(3) 支払督促(簡易裁判所管轄)
契約書などの支払を求める書面があって、たとえ債務者から支払督促命令に異議が出ても、本
案訴訟で確実に勝てる場合には、まず、債務者の反応を見ることも兼ねて(任意に支払う努力を
してくれるかどうかという意味)、裁判所書記官による書面審査だけで、相手方を裁判所に呼び
出さない手続であるところの支払督促を利用すると有効です。
今日では、電子支払督促手続も用意されているので、債権者本人による手続も比較的容易にで
きます。
(4) 少額訴訟(簡易裁判所管轄)
手元に証拠となる契約書類があるような場合で、債権金額が、60万円以下の場合には、1回
限りの当事者双方の簡易裁判所への出頭で手続が終わる少額訴訟が便利といえます。
(5) 民事調停(簡易裁判所管轄)
確実に全額の代金までは回収は難しいかもしれないが、話し合いである程度の回収なり交渉が
見込める場合には、民事調停を申し立てて、調停委員会の委員から相手方に一定の支払を説得し
てもらうのが有効な場合があります。
なお、(3)と(5)の手続は、管轄は簡易裁判所ではありますが、債権金額が140万円(簡易裁判
所の管轄金額の範囲)を超えていても特に問題はありません。
(6) 地方裁判所、簡易裁判所への通常訴訟
被告である相手方が一定の事由をたてに争ってくることが予想される場合には、最初から判決
や和解というわけには行かないでしょう。このような場合には、裁判所で主張と証拠をたたかわ
せて一定の審理の後に、判決か和解で解決せざるを得ないことになります。
(7) その他の手続
裁判所以外でも、民間におけるADRといわれる裁判外の紛争解決手続が用意されているところ
があります。
3 どの手続を選択するのが効率的かつ有効か
相手方の出方や資力、財産状況などの情報を収集した上で、どの手続が妥当かが決まってきま
す。また、手続手段は、必ずしも一つだけとは限りません。
この種の債権回収事案を多数扱っている弁護士に相談するのが、最も確実で早道になります。当
事者との交渉にも経験が必要です。相手方から最大限の譲歩を引き出したり、こちらの事情をどの
ように相手方に伝えたり、要求するのかを交渉できるのが弁護士です。
ただ、弁護士利用が良いことだけではありません。弁護士を雇うには当然のことなから費用(弁
護士報酬としての着手金と成功報酬)がかかることになります。
ごく少額(例えば十数万円)の債権を回収するのに弁護士を利用すると、特に訴訟対応を要する
ことになる場合には、費用倒れとなってしまうことも考えられます。
ご自分で、どこまで行い、どこからは専門家に依頼しなければならないのかを慎重によく考えま
しょう。分からない場合、判断しかねる場合、判断できない場合には、遠慮なく、法律相談を利用
してみてください。
文責 弁護士 福島政幸
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