債務整理
1 貸金業者などに借金を負っていて、返済に窮した場合の対応
まず、どこにいくらの返済債務があるかを把握するため、債権者を一覧表にしてみます(過払い
金の請求については、ここでは割愛します。)。そして、返済期限と返済額を見て、さらに、返済
の催促(督促)が来ている債権者はどこかも書き出します。
自分の現在の収入状況との比較で、月々返済して行ける金額かどうか。この債権者の中に、いわ
ゆる闇金業者がいる場合には、さらに検討が必要です。
闇金以外の貸金債務のみであれば、交渉次第では、ある程度の債務整理が可能となってきます。
往々にして、正規の金融機関からの借入ではまかなえなくなって、当面の利息金の支払いなどのた
めに現金調達がどうしても必要となり、闇金に手を出してしまう人も少なくありません。しかし、
一旦このような者から借金をすると、元本は減らず日々の利息の支払いに追われる悪循環に陥るだ
けです。けっして、闇金には手をださないようにしましょう。
さて、闇金以外の金融業者と債務整理の交渉をするにはどうしたらよいでしょうか。
ご本人が交渉に当たるのであれば、任意の債務整理ではなく、簡易裁判所の特定調停とか、弁護
士会の紛争解決機関など第三者機関のちからを借りて臨んだ方が有効かと思われます。なぜなら
ば、借金の返済に窮している債務者本人の言い分や約束を貸し手が信頼するのは、このような状況
では難しくなっているのが通常ですから、なかなかうまく行かないことが予想されます。
ただ、上記のような第三者機関を介した交渉では、債務の元本のほかにも既発生の利息、損害金
などの支払いも含めた交渉となるのが通常です。
やはり、このような場合には、弁護士に依頼して、債務整理の交渉に当たるのが一番有効といえ
ます。弁護士が債務整理を受任して臨む交渉では、なるべく元本の返済に絞った分割弁済の交渉に
当たります。通常、貸し手の金融機関側でこのような任意の債務整理に応じてくれる場合の分割弁
済回数の限度は、最大60回程度、5年間と言われています。債権を回収する側としても、債務者
が支払不能に陥った場合、破産手続などで債務が免責されてしまって、回収できなくなることを避
けるため、このような譲歩に応じてくれる余地が出てくることになります。
もう少し詳しく解説しますと、債権者と交渉に当たる弁護士が債務者に付いて、ある程度確実に
債務者からの分割による債務の返済が見込めるからこそ、債権者である金融機関は、このような交
渉に応じてくれるわけで、そこでは、債務者本人だけでは支払いに不安のあるところを弁護士の信
用を考慮してくれているものと考えられます。我々弁護士は、そのような信用を裏切らないように
依頼者である債務者にアドバイス、指導をすることが期待されていますし、このような信用を弁護
士報酬として獲得しているとも言えます。
2 返済を確実に履行するための留意事項
依頼者の中には、せっかく弁護士に債務整理の交渉に立ってもらって、債権者各社との間に分割
弁済の合意をまとめてもらったにもかかわらず、途中で返済の原資となる就職口を失うなどの事情
で、合意書の返済約定を守ることができないで、相談に見える方も見受けられます。
当面の窮地をしのげればよいというような返済の正確かつ確実な見通しを立てずに交渉に臨むの
は、避けなければなりません。
弁護士を介した債務整理の合意書では、約定の中に、月々の分割弁済額の支払いを怠った場合に
は、債務金額全額についての期限の利益を喪失させる(以後の分割支払いを認めない形で、一括支
払い義務が生じる旨)条項が盛り込まれていることが多いはずです。
このような依頼者から再度債務整理の依頼を受けた場合にはどうしたらよいでしょうか。前の合
意書の約定が守れていないわけですから、そのときの交渉に当たった弁護士の信用がその債権者と
の関係で毀損されているとも考えられます。
まず、交渉の仕方として考えられるのは、約定の分割弁済が遅れてしまって支払われていない分
を何とかまとめて支払う方法、要するに、期限の利益を喪失させた事情を取り戻す形で、従前の約
定どおりの分割弁済状況に戻すための交渉です。そのためには、滞った支払金額分を用意する必要
がありますので、債務者にとってはなかなかハードルが高いかもしれません。
次に、分割支払いの遅れを全額取り戻すのは難しいとしても、ある程度のまとまった金額を頭金
として用意して、再度、分割の支払方法をリスケジュールする方法です。ここでは、頭金なしに単
なるリスケ交渉に臨むのでは、なかなか債権者の納得が得られにくい状況にあるわけですから、可
能な範囲で頭金を調達する必要があります。
さらに、債権者は、当初合意案の約定を守れなかった債務者に不信感を抱いているわけですか
ら、守れなかった事情を端的に説明して、現在は何とかまた返済を続けていける状況になったこと
を理解してもらう必要があります。例えば、病気等でそれまで勤めていた会社を辞めざるを得なく
なって無職となり分割弁済できなくかったとしたら、現在は、回復して健常者として稼働能力もあ
り、再就職できて定収があることなどの事情を説明して、今後は、確実に分割弁済が見込めること
を信用してもらうなどです。
いずれにせよ、一度失った信用を取り戻すのは大変なことだということを理解する必要がありま
す。債権者によっては、再度の任意の債務整理では応じてくれず、判決や調停・和解といった裁判
所における債務名義の取得あるいは公証人役場での執行証書の合意を希望されるケースも少なくあ
りません。
3 債務整理のため債権者との交渉に弁護士を依頼する利点
上記2でも触れましたが、任意の債務整理の交渉に弁護士が立つことによる弁護士報酬は、弁護
士としての信用を依頼者としては債権者との交渉に当たって有償で手に入れるものであることを理
解していただきたいところです。単なる交渉のために高額のお金を払うのはどうかという考えをさ
れる方もおられるかもしれません。しかし、ご本人ではできないことを担当する代償にはやはりお
金が必要ということであります。
また、法律の専門家によるさまざまな選択肢の中から最善の方法を導き出す手法・スキルにも弁
護士を依頼するメリットがあるはずです。例えば、債権者の中でも、強行な債権者とそうでない
者、債権金額の多い債権者と小口債権者などさまざまな交渉相手がいる中で、交渉の優先順位をた
てたり、一つの交渉がうまく行かなかった場合の次善の対処方法など、柔軟な対応、大局的見地に
立ったアドバイスなどが可能です。
4 破産や個人再生との分岐点
任意の債務整理の交渉では、どうにもならない場合、倒産手続の検討も視野に入れておく必要が
出てきます。
債務の総額とご自分の財産状況(月々の収入など)との兼ね合いで、果たして分割して返済して
行けるのかどうか。
目安となるのは、現在の月当たりの収入ないし可処分所得と総債権額との比較です。
自分の現在の収入から返済金を捻出して、最長でどのくらい返済期間がかかりそうか。
先ほど、金融業者との交渉における分割弁済期間を最長5年くらいとしましたが、逆に、5年
間、毎月分割で60回かければ返済できるとはいっても、その確実性は、期間が相当長いことから
すると明らかではありません。
個人再生では、原則3年間での再生計画案の提出が求められていることとの関係で、せいぜい3
年から3年半の範囲で分割返済できるかどうかを目安とする考えもあります。その他、2年間くら
いで返済可能かどうかを目安とする考えもあります。
任意整理と破産、個人再生との関係で見ますと、破産の要件としては、支払不能状態にあるこ
と、個人再生の要件は、支払不能の可能性が相当程度あること、とされています。
例えば、月収20万円の人が、その20倍を超える債務を負っているような場合、一般的には支
払不能状態にあるといってよいでしょう。同様に、月々の可処分所得で2年分を超えるような金額
の債務があれば個人再生の要件を満たしていると思いますし、毎月の返済額の合計が「手取り収
入」から住居費を差し引いた額の3分の1を超える場合には、支払不能状態にあると言えましょ
う。
中には、定収がありながら、債務総額100万円程度で破産したいと申し出てくる人もおられま
すが、定収のなかみと金額にもよりますが、一般的には、これでは未だ支払不能とは言えないはず
です。生活保護を受給しているような場合でなければ支払不能とはならないはずです。
このように、相談者、依頼者本人の意向とは別に、客観的にその支払状況を分析して、手続の選
択を考える必要があることに留意していただきたいところです。
5 経済生活再建・見直しの方法
借金を負わざるを得なくなった事情は、人それぞれでありましょう。
しかし、これまで述べてきたような借金に追われる方のうち、少なからずの人が、一度ならず、
支払不能や破産、個人再生、さらには前述のような再度の債務整理に臨まなくてはならなくなって
相談に見えるケースがあります。
肝心なのは、収入と支出のバランスであることは言うまでもありません。
健全な経済生活は、収入の範囲で生活をすることにあります。
経済的に破綻する方の生活習慣に原因が根差していることが多く、お金が手元になくてもとりあ
えずは周りにキャッシングなどでお金を借りることのできる環境があると、簡単にカードを使ってしま
う。そこを自覚することがいかに難しいことか。
しかし、借りたものは返すのが社会のルールですから、社会で住み暮らす以上、ルールを無視し
ては生活に行き詰まるのは目に見えています。
収入というものは、生活にとって大切なもので、消費は生活には必然的に伴うものですが、我慢
も必要であること、自分が家計の管理能力に問題があると自覚した場合には、婚姻している場合に
は配偶者、独身で親と同居している場合には親などの他人のちからも借りて、経済的自律の生活習
慣を身につけるようにしましょう。
頭の痛い話ですが、債務を整理したり、破産・再生後の経済生活こそが、再度の失敗をしないた
めの備えとして最も重要です。
文責 弁護士 福島政幸
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