非正規雇用者の雇用管理(パート、アルバイト、契約社員中心に)
事業者の中には、正規雇用だと労働基準法などのいろいろな規制がかかって労務管理が大変で、やれ残業代、休日手当、深夜労働だの、あるいは有給休暇とか育児休業など、さらには社会保険の加入・管理などと面倒なので、非正規雇用で従業員を賄う方が効率的だと考えている人も少なくありません。
しかし、必ずしもそうではないことを理解してもらう必要があります。以下に整理してみます。
1 非正規雇用者についてのバリエーション
パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員などが考えられます。
法律上の定義としては、「短時間労働者」には、パートタイマー、アルバイトが含まれる。
【契約社員】とよく表現されますが、これは法的概念ではなく、正規社員とは異なる期間の定め
のある社員として認識されています。
2 法律の規程
上記1のようにパートタイマー(以下では、アルバイトも含むものとする。「パート」と称す
る)については、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」=いわゆる「パート労働法」
が存在します。
派遣社員については、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法
律」が存在します。
契約社員については、上記のような単行法は存在しておらず、「労働契約法」という労働基準法
と並ぶいわゆる労働法の基本法の中で、「期間の定めのある労働契約」として定義・規定されてい
ます(労働契約法第四章)。
3 非正規雇用者の労務管理についての考え方
(1) 契約形態の整理
非正規雇用者にも上記のようにいろいろなバリエーションがあり、その法的規制は錯綜気味で
す。
整理してみると、① 正規労働者のようにフルタイムで働く人(とそうではない人)
② 正規労働者のように期間の定めのない契約である人(とない人)
といった具合に、① 働く時間を軸に、②のように雇用期間を軸に、労働者の種類を分類整理で きると思います。
①ではパート(バイト)が除かれ、有期契約社員とか派遣労働者が対象となると思われます。
②では、有期契約社員は除かれ、パートには、契約期間の定めのある人とない人がいて、後者 が対象になることになります。
(2) 労働基本法(労働契約法、労働基準法など)の適用
基本的には、正規雇用者だけではなく、非正規雇用者にも労働基本法の適用(ここでは紙面に限りがあるので、労働安全衛生については下記5(2)の定期健診以外は割愛します。)はあるのだと理解しておくことが肝要です。そして、例外・除外あるいは特別規定が非正規雇用に及ぶと。具体的には、以下のとおりです。
a 賃金管理面
最低賃金法による時間当たりの最低賃金(時間単価)は、非正規雇用者にも適用されます。
賞与、昇給などは、非正規雇用には、任意適用となります。
諸手当関係;近時の判例などからは、正規雇用者と非正規雇用者との間で、差を設けることには慎重さと注意が必要です。今日日(きょうび)の同一労働同一賃金の法規制の及ぶことが考えられます。別の記事にある最高裁判例(ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件)を参照してください。
b 労働時間管理面
労基法にある時間外労働、休日労働及び深夜勤務について
1日8時間、1週40時間を超えた勤務、午後10時以降翌日午前5時までの勤務については、いうまでもなく、非正規雇用者にも適用され、法規に従った時間外手当を支給しなければなりません。ただ、パートのような短時間労働者の場合、契約所定労働時間(例えば、5時間)を超えて勤務した場合でも、8時間以内であれば、割増賃金(1.25倍)を支払う必要はなく(週40時間以内も同様)、通常の時間単価を払えば済むことになります。アルバイトで、コンビニの深夜勤務のみのような場合、雇用契約内容にもよりますが、日勤の基準単価がある場合には、深夜勤務割増単価を設定すべきですし、日勤がない場合にも、他のアルバイト従業員で日勤の基準単価がある場合は、やはりそれに割増(1.25倍)した単価設定することが望ましいといえます。
休憩について
基本的には労基法34条のとおり。1日6時間超えて勤務なら45分、8時間超えなら1時間の休憩を設ける必要があります。
逆に、短時間労働者の場合、厳密には、上記規制にかからないとしても、他の従業員と同様に昼休みなどは同様に設けることが望ましい。
c 年次有給休暇(労働基準法39条)
有期の契約社員であっても、雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上勤務した人には、正規従業員と同様な年休付与義務があります。
パート(バイト)の従業員への年休付与について
共通条件;決められた労働日数の8割以上勤務+6か月間継続勤務 は上記と同じ
1)週5日又は週30時間以上なら正規従業員と同様の年休付与日数義務が当てはまる。
2)それ以外の週5日未満、週30時間未満の場合 下表のとおり
継続勤務年数が 6月 1年6月 2年6月 3年6月 4年6月 5年6月 6年6月以上
週5日:年217日以上 10 11 12 14 16 18 20 日
4日: 169~216日 7 8 9 10 12 13 15
3日: 121~168日 5 6 6 8 9 10 11
2日: 73~120日 3 4 4 5 6 6 7
1日: 48~ 72日 1 2 2 2 3 3 3
d 解雇、解雇予告手当
期間の定めのない社員は、労契法16条による解雇制限(正規社員とほぼ同様)
それゆえ、パート従業員であっても、期間のさだめなく契約しているときには、解雇権濫用法理に服することになる。
有期契約社員は、期間の定めによるが、契約期間中の解雇は、労契法17条で、「やむを得ない事由」が要求される。また、同法18条による無期労働契約への転換、同法19条による更新の繰り返しの規制(日立メディコ、東芝柳井事件の最高裁判例を明文化したもの)に服する。
パート・バイトであっても、解雇は30日前に、そうでない場合は、30日分の解雇予告手当の支給必要となります(労基法20条)。
(3) 就業規則について
パートを常時10人以上雇っている事業者は、パートに適用される就業規則(「短時間労働者就業規則」)を作成する必要がある(パート労働法の下位規範であるパート指針から)。
企業によっては、期間の定めある契約社員について「有期従業員就業規則」を制定し、そこで、上記労契法17~19条に関係する規律を整理して規程ているところもあり、それが望ましいと思います。
(4) 育児休暇(育児休業給付)・介護休暇について
いわゆる「育児・介護休業法」(「育児休業、介護休業等・・労働者の福祉に関する法律」)が存在します。
この法律は、パートなどの短時間労働者、契約社員などの有期労働者の区別なく、「一定範囲期間雇用者」にも適用対象になるとされています。
条件としては、雇用期間が1年以上、子が1歳に達する日を超えて引続き雇用されること
(子が1歳に達する日から1年以内に期間満了、更新されないときは除く)
半年契約や3か月契約であっても、契約更新により上記に当てはまれば同様
介護休暇の場合、対象者:配偶者、父母・子、配偶者の父母
日数 :93日を限度とする。
日々雇用される者、期間の定めある者、パートで期間の定めのない者や契約更新繰り返した者であっても、雇用期間1年以上、休業予定日から93日超えて引続き雇用される場合は対象となります。(ただし、93日経過日から1年経過する日までに契約更新ないときは除く)
4 社会保険、雇用保険について
(1) 健康保険と厚生年金保険については、パートも下記条件を満たせば加入が可能
1) 全ての法人事務所、従業員5人以上の個人事務所(ただし、農、畜、水、林業及びサービス業を除く)
2) 契約期間2か月以上かつフルタイムの4分の3時間以上勤務
(2) 雇用保険
雇用保険には、a 一般被保険者とb 短時間労働被保険者の2種類がある。
週30時間以上のパートであれば、aの一般被保険者となる。
週30時間未満であっても、1週間に20時間以上連続して1年以上雇用見込なら、bの短時間労働被保険者となる。
雇用保険の給付条件:
a 一般被保険者の場合、離職日前1年間に14日以上は働いた月が6か月以上かつ雇用保険加入期間6か月以上
b 短時間労働被保険者の場合、離職日前2年間に11日以上働いた月が12か月以上かつ雇用保険加入期間12か月以上
5 その他
(1) 正社員以外の深夜労働(妊婦が時間外・休日・深夜労働を禁止されていることに関連して)
深夜労働の免除(労基法66条)
育児・介護をする者についても、一定の場合免除されることがある。小学校入学前の子を育てている場合とか、要介護家族がいる場合
深夜労働の免除を得るには、免除開始日1か月前に申請する。1回につき、1か月以上6か月以内で、回数は制限がない。
(2) 労災
労働安全衛生法66条で定期健康診断の事業者への義務付け
1年に1回、有害業務従事者には、半年に1回
① 常時雇用されているパート(期間の定めない者、期間定めあっても更新1年以上あるいはその予定の者)
② フルタイム社員の1週間労働時間の4分の3以上勤務
の条件を満たしていれば、健診対象となる。
以 上
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