企業支援のための弁護士の活用

 先日(2・27)、日弁連のライブ実務研修に参加してきた。テーマは、「中小企業等の事業者支援のための『グレーゾーン解消制度』について」というものであった。
 このタイトルからだけでは、何を問題にしているのか分かりにくいかと思いますが、要するに、事業者が新しい事業を始めるに当たって、その新事業に法規制が伴うことはよくあることですが、現在の安倍政権下、アベノミクスの経済成長戦略の第3の矢として、政府全体として、規制改革を強力に推進しようという考えのもと、産業競争力強化法に盛り込んだ特例扱いのことを指している。

 このように説明しても、未だ、イメージが具体的ではないでしょう。実例を紹介しますと、ある医薬品会社が展開するドラッグストアで血液の簡易検査とその情報に基づく健康関連情報の提供をする新しい事業をスタートしようとしました。事業内容としては、ドラッグストアで利用者らが採血した血液について、検査結果を通知するサービスです。

 この場合、利用者が自己採血する行為が、医師法17条で、医師のみに認められている「医業」に該当するということになると、ドラッグストアの店舗で扱うことが難しくなります。

 この事案は、結果的に、医業に当たらないとして、店舗で扱うことができるように特例を認めたようです。

 このような企業単位の規制改革を推進するため、事業所管大臣が規制所管大臣と調整する仕組みを作ったわけです。

 もう一つ、例を挙げると、ある大手発動機会社が、アシスト力の大きいリヤカー付電動アシスト自転車の公道走行について、現行の道路交通法施行規則では、2倍までのアシスト力に限定されているところを、一定の代償措置(安全教育等)を講じた上で、アシスト力の上限を3倍とする電動アシスト自転車の活用を可能とした。

 事例の前者は、果たして当該行為(サービス)が「医業」なのかどうかという、言わば「グレーゾーン」にあるようなサービス行為につき、事業者が現行の規制の適用が不明確な分野においても、安心して新事業活動を行い得るようにした「グレーゾーン解消制度」の事例であります。

 事例の後者は、新事業活動を行おうとする事業者が、その支障となる規制の特例措置を提案し、安全性等の確保を条件として、「企業単位」で規制の特例措置を認める「企業実証特例制度」の事例であります。 

 講師に経済産業省の担当官を迎え、政府としては、上記趣旨のもとこのような規制緩和や特例認可を推進して行きたいこと、ついては、事業者が新規事業に関して所管している官公庁の担当部署と折衝調整又はその前提としての問い合わせ等をする際に、弁護士が事業者の代理人として交渉に当たるなり、活躍の場があるのではないかという示唆がありました。

 

事業者が、規制適用の有無を照会する場合、主として経済産業省の窓口に確認を求めることになります。経産省大臣(実際には、経産省の窓口担当官)が規制所管大臣に確認・回答を求めることになります。

 このように、制度を利用する際の申請手続等には、窓口を通して、段階を踏んで、回答や認定を受けるなど、手間を要し、時間もかなりかかるのではないかといった印象を受けるのではないかと思います。

 ただ、今回の経産省の担当者の方の話では、行政府の側は、戦略的にこのような産業競争強化法を規定して運用に当たる趣旨から、申請には極力協力的かつサポートをする旨、又、相談、申請から回答や認定などにかかる時間についてもトータルで3か月くらいで行えるように対応の体制を整えるという。

 従来の「お役所仕事」として、手間ばかりがかかった効率の悪さや、時間がかかるといったマイナスイメージの払しょくに努めているようです。

 新しい事業構想を伸長させて産業を活性化する一方、陳腐化した事業をこのような新しい事業の方向へ淘汰させて行こうとする政策が分かり易く打ち出されていると思います。

 もし、事業者の皆さんが何らかのヒントを得て、新しい事業を始めようとしたり、事業拡大を企図する際に、法の規制の問題などに突き当たった際には、是非、このような制度の活用を考えてみてはいかがでしょうか。


 その際に、我々弁護士が、このような作業にどれだけ関与できるのかが問われることになると思われます。

 極端に言えば、事業者自身が行うほかに、弁護士ではなくとも相談に乗れる作業ではなかろうか。弁護士資格は、折衝の要件ではないことは確かです。

 しかし、法的解釈や運用の問題には、やはり法律家としての活躍の余地があるものと考えます。

 現在、都市部では弁護士があまた存在して、訴訟事件等だけでは弁護士個々人は十分に機能し得てないのではと危機意識を持たれています。

 裁判所に張り付かないと仕事ができないようでは、弁護士としてはやって行けない世の中になりつつある。このことを念頭に置いて、今回、このような取り扱い事例を紹介しました。                        (文責 弁護士 福島政幸)

トラウト法律事務所

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